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長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.11.21
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長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで

「地域金融力強化プラン」の策定に向けて議論を進めている金融審議会作業部会の会合に八十二銀行の幹部が登壇し、資金交付制度を活用して取り組んできた長野銀行との経営統合について説明しました。合併に向けてたちはだかった壁、人材の再配置、統合による"意外"な効果とは――。

1000人の「自然減」上回る追加人材

八十二銀行と長野銀行は、それぞれ県内では「犬猿の仲」といわれることもある長野市と松本市に拠点を置く地銀、第二地銀ですが、2022年9月に経営統合の基本合意書を締結。23年6月に正式に経営統合を完了しました。2026年1月には、合併によって新銀行「八十二長野銀行」を発足させる予定です。

統合に踏み切った主な理由として八十二銀行幹部は、「量・質ともに圧倒的に人材が不足」していることに加え、マネロン対策やサイバーセキュリティ、金融経済教育といった非競争分野への投資が増加していることを挙げました。

人材面への対応として、両行は合併を機に戦略的な人員再配置を進めています。同行は採用難やバブル前後の大量採用層の退職により、2029年3月までに1000人の「自然減」が生じると推定。これに対し、合併を機に店舗統廃合や効率化を通じて1200人が増えるので、差し引き200人の「戦略人材」を創出。コンサルティング業務に100人、デジタル業務に50人、新規業務に50人を配置し、それぞれ地域企業の価値向上を担うといいます。

 

幹部は、合併に当たって直面した課題として「多額のコスト」を挙げました。総コストは131億円に上り、内訳はシステム関連で71億円、店舗統廃合で23億円、その他コンサルティング費用などで37億円となっています。地銀どうしの合併などを国が支援する資金交付制度を活用し、コスト面の課題を乗り越えたといいます。

現在、システムに関しては統合に向けたリハーサルを完了させ、安定稼働に向けて最終調整を進めている状況です。

 

スタートアップ連携、事業承継の支援も

両行は既に共同で、地域企業への支援を加速。幹部はその事例の一つとして取り上げた、キノコ関連の地場産業メーカーへの支援ケースでは、八十二銀行と長野銀行が共同で特別目的会社(SPC)を通じて株式を集約。また、コロナ禍で借入が増加していたため、シンジケートローンなどによって借入金の長短バランスを適正化し、財務体質の健全化を図ったといいます。

幹部は「このメーカーはお恥ずかしい話、かつて八十二銀行が融資をお断りし、会長さまが『八十二銀行とは取引しない』ということだったが、今回のケースではもはやそういう時代ではないということで、両行でお役に立つことができた」と語り、統合の意義を強調しました。

この他、EV化の流れを受けて農作物の自動集荷の分野に乗り出した自動車部品製造業と、AI技術を持つ都内のスタートアップ企業の連携を促した事例や、細密な穴あけ技術を持つ後継者不在の企業を、金属製品加工業の買い手企業に引き継ぐM&Aを活用した事業承継支援といった具体的な事例について報告しました。

 

有識者委員から、資金交付制度を使用した実感を問われると、幹部は「この間はシステム統合についても(金融庁側から)検査をいただいたが、自分たち自身で気づかないところも色々とご指摘をいただいてありがたく、合併に向けて非常に有益だった」と述べた上で、「ただでコンサルしてもらったみたいだ」という頭取の感想を披露し、笑いを誘っていました。

長野県の人口は現在197万人。直近10年間で12万人(5.7%)が減少し、事業所数も減り続けていますが、人口減少、法人減少は全国の地域が抱える共通の課題でもあります。金融庁は八十二銀行・長野銀行の事例を、「地域金融力」維持・強化の文脈に結びつけ、資金交付制度の延長・拡充に向けた具体的な議論の布石にする考えとみられます。

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森脇 ゆき

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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