SMFG、部門横断の投資枠設定でリテールにも恩恵
SMFGの磯和氏は「(生成AIの普及から)2年半が経ち、多くのところで『ちょっと使ってます』『翻訳とメールの返信ぐらいしか使えてません』というところから『これ本当にもっと使えないのかな』と、踊り場から今、多くのところが脱しようというタイミングじゃないかと思う」と説明。AIの発展の流れとしては、1人につき1台のAIによって、各人の業務を自律的に肩代わりするパーソナライズ化、エージェント化が進むとして、「これがトレンドということで、もう間違いない」と語りました。
SMFGでは従前から、デジタル関連のアイデアを若手を含め全社から持ち寄りCDIOの磯和氏や頭取らが300億円の投資枠内で審査する「CDIOミーティング」を毎月実施してきました。デジタル関連子会社10社ほどの設立も、このミーティングでの提案から生まれたといいます。さらに昨年10月には、AI分野に特化した予算枠を500億円分設定しています。
磯和氏はこうした予算枠の設定がリテール部門の高度化にも役立っていると話しました。「これまでリテール部門、法人部門がそれぞれ検討していたものが、自分の部門の予算を使わなくていいということになり、狙い通りに(提案が)バーっと出て来ている。それ以来、もう毎月毎月が『生成AIまつり』のようになって、順番に予算をつけていっている」と説明。「各部門でやると投資利益率で管理しがちなので、生成AIの新しいビジネスはなかなか優先順位が上がってこない。たとえばコールセンター(の高度化)について、本当はリテール部門でやればいいのだが、リテール部門の優先順位が上がらないということであれば、こっちの予算枠を使ってということで、部門を超えて案件が今どんどん上がっている状況だ」と語りました。
投資の優先順位付けについては「難しいが、できるだけインパクトの大きいものからやろうということにしている。いろいろやってきて、担当者のやる気が一番だと思う」と強調。「僕らの前に出てプレゼンするのは結構緊張すると思う。僕はこんな感じでフランクだが、頭取と社長が横にいて、『ボケナス』とか言われる可能性も」と冗談をまじえ、「結構、ボコボコにされて棄却されることもあるので、(提案側も)根性がいる。事前の打ち合わせがないので、僕が『これやろうよ』と言っても横で社長が『駄目じゃない』と言い出したり、わりとヒリヒリした戦いが続くから、『こういう価値を提供したい』というキーマンのやる気を今、フックにしている」と話しました。
みずほ、次世代AIは「私たちが得意なすり合わせの世界」
みずほフィナンシャルグループ執行役グループCHRO兼グループCDOの上ノ山信宏氏は、「(基盤となる)AIが一定の性能を確保できるようになると、今度は(基盤となるAI技術を活用する)アプリケーションの層での勝負になる」との認識を示した上で、「(アプリケーション層は)いろんなものを組み合わせたり、チューニングしたりといった世界では、すり合わせみたいなものが大事になる。ここは、私たちの得意とするところではないかと、僕は明るい未来を展望している」と語りました。
AIは誰にでも使いやすい利点がある一方、ビジネスでの利用においては他社との差別化が図りにくくなるとの懸念もあります。これについて上ノ山氏は「企業体ごとの『味付け』のところで何が残せるのか。残せないと、ある意味でお客様と金融機関の間の情報非対称性みたいなものの中で今までビジネスができてきたものが、完全に失われることにもなりかねない。経営として、非常に悩ましい問題として、立ち向かっていかなければいけないことではないか」と危機感を示しました。
その一方で、「AIがどんなに進んでも出来ない領域も、多分あるんだろうとも思う」と指摘。「例えば直感、ひらめき、共感、情動がアルゴリズムでは解決できない領域だとすると、経営や、組織のマネジメントの役割はこれまで以上に重要になってくるだろう。組織運営の支えとなる企業文化みたいなものが、今までよりもずっと大事になる時代が来るのではないか」と述べました。
また、上ノ山氏は同グループとして2025年度に業務効率化3つ、対顧客サービス2つの5つの重点分野を指定してデジタル投資を拡大する方針を明かしました(※講演時点で重点分野の具体的内容は未発表)
三菱UFJは精鋭の情報部隊を構築、ディープシーク登場を「1カ月前に把握」
三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTOの山本忠司氏は、同グループでは、もともとリテール部門に属して店頭事務のDXなどに取り組んでいたデジタル専門部署を、組織改編によって格上げし、24年度に「デジタル戦略統括部」を設置。社内向けのデータ整備からグループ内外企業の出資先の探索まで、さまざまな関連機能を集約しました。
三菱UFJの山本氏は、AI技術の進化の速さに対応するため、キャリア採用の人間を中心に、最先端の技術動向を常にキャッチアップする体制を構築していると説明。200人ほどのメンバーのうち4割ほどがキャリア採用だとして「毎週新しい部下が増え、顔がわからない部下が大量に増えている状態ではあるが非常に力を入れて進めている」と話しました。AIに関する動向を調査し、分析するインテリジェンスチームも設置しています。
1月には中国発のスタートアップ企業が低コストでAIモデルを開発したと発表して注目を集め、「ディープシークショック」とも呼ばれました。山本氏は「ディープシークについても、おそらく出る一カ月以上前から『これ来ますよ』という話があった」と明かし、「AIは本当に進化が速く、しっかりついていかないと、えらい時代遅れのAI使っていては目も当てられない。早めに知見を取っていかなければいけないという問題意識で進めている」と述べました。