finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

AI普及による「情報非対称性の消失」は銀行の危機?
3メガ役員が本音で討論

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.04.02
会員限定
AI普及による「情報非対称性の消失」は銀行の危機? <br />3メガ役員が本音で討論

3月上旬に開かれた「FIN/SUM 2025」(金融庁、日本経済新聞社の共催)では、3メガバンクグループでデジタル領域を担当する役員が勢ぞろいしました。三井住友フィナンシャルグループ執行役専務・グループCDIOの磯和啓雄氏、みずほフィナンシャルグループ執行役グループCHRO兼グループCDOの上ノ山信宏氏、三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTOの山本忠司氏が、AI活用拡大に向けた取り組みの現状と今後の展望について熱論。技術発展による「情報非対称性の消失」について、銀行経営の視点から危機感を示す声も聞かれました。

SMFG、部門横断の投資枠設定でリテールにも恩恵

SMFGの磯和氏は「(生成AIの普及から)2年半が経ち、多くのところで『ちょっと使ってます』『翻訳とメールの返信ぐらいしか使えてません』というところから『これ本当にもっと使えないのかな』と、踊り場から今、多くのところが脱しようというタイミングじゃないかと思う」と説明。AIの発展の流れとしては、1人につき1台のAIによって、各人の業務を自律的に肩代わりするパーソナライズ化、エージェント化が進むとして、「これがトレンドということで、もう間違いない」と語りました。

 

SMFGでは従前から、デジタル関連のアイデアを若手を含め全社から持ち寄りCDIOの磯和氏や頭取らが300億円の投資枠内で審査する「CDIOミーティング」を毎月実施してきました。デジタル関連子会社10社ほどの設立も、このミーティングでの提案から生まれたといいます。さらに昨年10月には、AI分野に特化した予算枠を500億円分設定しています。

 

磯和氏はこうした予算枠の設定がリテール部門の高度化にも役立っていると話しました。「これまでリテール部門、法人部門がそれぞれ検討していたものが、自分の部門の予算を使わなくていいということになり、狙い通りに(提案が)バーっと出て来ている。それ以来、もう毎月毎月が『生成AIまつり』のようになって、順番に予算をつけていっている」と説明。「各部門でやると投資利益率で管理しがちなので、生成AIの新しいビジネスはなかなか優先順位が上がってこない。たとえばコールセンター(の高度化)について、本当はリテール部門でやればいいのだが、リテール部門の優先順位が上がらないということであれば、こっちの予算枠を使ってということで、部門を超えて案件が今どんどん上がっている状況だ」と語りました。

 

投資の優先順位付けについては「難しいが、できるだけインパクトの大きいものからやろうということにしている。いろいろやってきて、担当者のやる気が一番だと思う」と強調。「僕らの前に出てプレゼンするのは結構緊張すると思う。僕はこんな感じでフランクだが、頭取と社長が横にいて、『ボケナス』とか言われる可能性も」と冗談をまじえ、「結構、ボコボコにされて棄却されることもあるので、(提案側も)根性がいる。事前の打ち合わせがないので、僕が『これやろうよ』と言っても横で社長が『駄目じゃない』と言い出したり、わりとヒリヒリした戦いが続くから、『こういう価値を提供したい』というキーマンのやる気を今、フックにしている」と話しました。

 

みずほ、次世代AIは「私たちが得意なすり合わせの世界」

みずほフィナンシャルグループ執行役グループCHRO兼グループCDOの上ノ山信宏氏は、「(基盤となる)AIが一定の性能を確保できるようになると、今度は(基盤となるAI技術を活用する)アプリケーションの層での勝負になる」との認識を示した上で、「(アプリケーション層は)いろんなものを組み合わせたり、チューニングしたりといった世界では、すり合わせみたいなものが大事になる。ここは、私たちの得意とするところではないかと、僕は明るい未来を展望している」と語りました。

 

AIは誰にでも使いやすい利点がある一方、ビジネスでの利用においては他社との差別化が図りにくくなるとの懸念もあります。これについて上ノ山氏は「企業体ごとの『味付け』のところで何が残せるのか。残せないと、ある意味でお客様と金融機関の間の情報非対称性みたいなものの中で今までビジネスができてきたものが、完全に失われることにもなりかねない。経営として、非常に悩ましい問題として、立ち向かっていかなければいけないことではないか」と危機感を示しました。

 

その一方で、「AIがどんなに進んでも出来ない領域も、多分あるんだろうとも思う」と指摘。「例えば直感、ひらめき、共感、情動がアルゴリズムでは解決できない領域だとすると、経営や、組織のマネジメントの役割はこれまで以上に重要になってくるだろう。組織運営の支えとなる企業文化みたいなものが、今までよりもずっと大事になる時代が来るのではないか」と述べました。

 

また、上ノ山氏は同グループとして2025年度に業務効率化3つ、対顧客サービス2つの5つの重点分野を指定してデジタル投資を拡大する方針を明かしました(※講演時点で重点分野の具体的内容は未発表)

 

三菱UFJは精鋭の情報部隊を構築、ディープシーク登場を「1カ月前に把握」

三菱UFJフィナンシャル・グループ執行役常務リテール・デジタル事業本部長兼グループCDTOの山本忠司氏は、同グループでは、もともとリテール部門に属して店頭事務のDXなどに取り組んでいたデジタル専門部署を、組織改編によって格上げし、24年度に「デジタル戦略統括部」を設置。社内向けのデータ整備からグループ内外企業の出資先の探索まで、さまざまな関連機能を集約しました。

 

三菱UFJの山本氏は、AI技術の進化の速さに対応するため、キャリア採用の人間を中心に、最先端の技術動向を常にキャッチアップする体制を構築していると説明。200人ほどのメンバーのうち4割ほどがキャリア採用だとして「毎週新しい部下が増え、顔がわからない部下が大量に増えている状態ではあるが非常に力を入れて進めている」と話しました。AIに関する動向を調査し、分析するインテリジェンスチームも設置しています。

 

1月には中国発のスタートアップ企業が低コストでAIモデルを開発したと発表して注目を集め、「ディープシークショック」とも呼ばれました。山本氏は「ディープシークについても、おそらく出る一カ月以上前から『これ来ますよ』という話があった」と明かし、「AIは本当に進化が速く、しっかりついていかないと、えらい時代遅れのAI使っていては目も当てられない。早めに知見を取っていかなければいけないという問題意識で進めている」と述べました。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁

おすすめの記事

【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか

finasee Pro 編集部

【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入

藤原 延介

【プロが解説】「服の製造小売り」は、デジタル力による顧客ニーズ対応と、「捨てない社会」のマネタイズ化が今後の市場発展のカギ

上野 武昭

新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】

finasee Pro 編集部

【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか

みさき透

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
① 「長期・積立・分散」だけが顧客本位なのか
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
ゆうちょ銀・郵便局の売れ筋トップに新設の単位型ファンド、バランス型人気も続く
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
新プログレスレポートと金融庁幹部人事の背景を読む、キーワードは「官邸の弱体化」と「尻に火が付いた暗号資産対策」
【オフ座談会vol.6:かやば太郎×本石次郎×財研ナオコ】
【連載】投信ビジネスのあしたはどっちだ
資産形成を達成した後…「次なる課題」
静銀ティーエム証券の売れ筋で際立つパフォーマンスをみせた「モノポリー戦略株式」とは?
【みさき透】金融庁はなぜ毎月分配型に「免罪符」を与える気になったのか
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉑
パフォーマンス好調な欧州株ファンドに約11年ぶり高水準の資金流入
【金融風土記】宮崎県には地方創生の「優等生」も! 地域金融機関の集約が進む
金融庁が「プログレスレポート2024」の公表を休止した深いワケ 「FDレポート」との違いが出せなくなった?
不安定な市場環境で「利回り」と「信用力」の高さを併せ持つ米国地方債にチャンス=フランクリン・テンプルトン・アメリカ地方債ファンドが設定3周年

「自立と連携」を掲げて試行錯誤を重ね、確立された「銀証連携」モデルが新時代を拓く case of しずおかフィナンシャルグループ
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
【文月つむぎ】投信だけでなく保険販売でもFDを徹底できるか?知っておきたい「保険業法」改正のポイント
【文月つむぎ】「プラチナNISA」という言葉がない!自民党金融調査会の最新提言を読み解く
「支店長! 一般職に投信のセールスをしろとおっしゃいますが、日常業務が忙しくてとても無理です!」
【文月つむぎ】伊藤豊氏が金融庁長官に就任へ 
知っておきたい新長官&3局長の横顔
いわき信組の不正を見抜けなかった金融庁、「根本的な人員不足」も背景
浪川攻の一刀両断
手数料自由化とファンドラップから見る日本と米国の証券リテール改革の相違
三菱UFJMS証券の売れ筋にみえる国内株式ファンドへの期待、物価高で苦しむ年金生活者を支えるファンドとは?
外貨関連を軸に多彩なサービスを展開顧客の信頼を勝ち取る「総資産アプローチ」case of SMBC信託銀行
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら