かやば太郎氏 トランプ政権下でビットコインの値動きが激しくなり、暗号資産業界全体への注目が高まる中、政府・与党内でもこの波に乗ろうとする動きがありますね。
財研ナオコ氏 ただ永田町と霞が関のあいだには、やっぱり温度差もある。去年末の与党税制大綱では、一定の暗号資産を「広く国民の資産形成に資する金融商品」として位置付けると明記された……が、政府が閣議決定した大綱の段階では、この表現が外されていた。
本石次郎氏 金融庁の有力幹部は「結局は投機的な側面が強いので、資産形成の手段かどうかは時間をかけて考えていくべきだろう」と、与党内の論調から距離を置く姿勢を見せていましたよ。
かやば氏 2月の金融審議会総会でも、暗号資産仲介業を創設する方針についてある有識者委員が「あたかも金融庁が称揚・推奨し、『ぜひ皆さん使ってください』と言っているかのようにくれぐれも誤解されないよう」と念を押していたのが印象的でしたね。
本石氏 金融庁内からは「当局の気持ちを代弁してくれた」(職員)といった声も聞こえました。仲介業の創設は、制度を整備した実績として与党にアピールできます。しかし仲介業の中身をみると、むしろ将来的に規制を強める布石としての意味合いが強いわけですね。
かやば氏 3月上旬に開かれたFIN/SUM(金融庁などが例年実施する官民共同イベント)も、長官や大臣をのぞくと石破政権の独自政策に言及する場面は限られていました。むしろ、資産運用立国やスタートアップ育成といった、岸田政権下との連続性をベースにした話題が多かった印象です。
財研氏 講演やパネディス(パネルディスカッション)を見ているうちに、岸田政権がまだ続いているかのような錯覚を抱いてしまったよ(笑)
本石氏 「投資立国」のスローガンの下で推進しようとしている国内投資についても、庁内からは「資産運用立国」のときほどの熱量が感じられませんね。当局幹部は「海外企業に負けない魅力的な投資先が国内にあれば『投資立国』と『運用立国』は重なる部分がもっと増えるんだろうけど、現時点ではそれ以前に、投資家に選ばれる国内企業を育て上げる段階の域を出ない」と気乗り薄の様子でした。
かやば氏 民間セクターとの温度差という意味でもう一つ気になるのが、マイナンバーと銀行口座を紐づける預貯金口座付番制度についてです。すでに段階的に拡大してきた制度ですが、4月1日から全面実施となります。
財研氏 金融機関で新しく口座を作るお客さんに対して、職員側がマイナンバーと口座を紐づけするよう案内することが義務化される、という話だね。
本石氏 SNS上では、「国家による個人の財産の監視強化だ」というような論調が盛り上がっています。しかしデジタル庁は、「紐づけの義務化ではなく、紐づけの案内を義務化するだけだ」と強調しています。
財研氏 マイナンバーの話題はつねに政権にとって「炎上」のリスクがあり、今回も情報発信にはかなり慎重になっているようだ。
本石氏 デジタル庁幹部は「国税はマイナンバーの有無にかかわらず、調査権限に基づいて昭和のころから調査をしてきた」と強調しています。その一方、「場合によっては『マイナンバーを持っている口座を見たい』という話が(国税庁側から)あった際、金融機関側の方で探しやすくなる可能性はある」とも認めていました。利用者側の懸念が払しょくしきれない状況では、政府の旗振りで金融機関の現場がどこまで積極的に動いてくれるか、見通せないところがありますね。
財研氏 フィンテックやDXの話が注目を集めている一方で、投資信託など資産形成の影が薄くなってしまわないか心配だ。
本石氏 金融庁幹部は「金利が上がったとしても物価上昇幅には劣るので、『貯蓄から投資へ』の政策方針の意義は失われない。冷静にみれば労働人口の減少が続く中で30、40年後の日本経済を支えるのは消費であり、その原資を作ることが優先課題だ」と力をこめていました。
財研氏 総じて当局周辺の動きは依然として、岸田路線の延長上にあるといえる。商品券配布をめぐる問題で政局が不穏になるなか、金融庁も官邸のいうことをハイハイと聞くだけではない、より戦略的な立ち位置を模索しているようだ。今後の政局は見通しが難しいが、数カ月内に公表が見込まれる資産運用課の新レポートの中で、当局としての立ち位置がよりハッキリしてくるだろうね。