この日の総会では、金融審傘下の作業部会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」が1月に取りまとめた報告書を提出し、総会として了承しました。
この報告書では、暗号資産や電子マネー、ステーブルコインなどフィンテック分野に関する制度整備について、主に利用者保護の強化と参入規制緩和の観点から提言を整理しています。
暗号資産については、22年11月のFTX破綻時の教訓を踏まえ、暗号資産交換業者が金融商品取引業者の登録を受けていない場合であっても、当局として資産の国内保有命令を発出できるよう制度改正する方向性を示しました。
また、電子マネーの運営事業者を含む資金移動業者については、現行制度では仮に事業者が破綻した場合に資金還付手続きに170日以上を要することから、銀行や信託会社からの直接返還を解禁してよりスピーディに還付を受けられるよう制度整備することも盛り込んでいます。
報告書の中で特に注目を集めているのが、暗号資産交換業者と利用者の間に立って売買・交換の媒介を行う新たな仲介業の枠組みの創設です。
報告書では、アンホステッド・ウォレットと呼ばれる暗号資産の自己管理手段の普及を念頭に置いた新たな枠組みについて、①特定の金融機関を委託を受け、その金融機関のために仲介を行う「所属制」を採用すること、②財政的な参入規制を設けないこと、③AML/CFT(マネーローンダリング/テロ資金供与防止)の履行義務を課さないこと――といった方針を提示しています。
暗号資産の自己管理、監視の抜け穴にも
この日の総会では、報告書を取りまとめた作業部会のメンバーでもある有識者委員が、暗号資産仲介業の創設を盛り込んだ意義について語りました。
報告書では、制度改正を進める必要が生じた背景として、暗号資産の管理手段である「アンホステッド・ウォレット」の登場を挙げています。
委員は「アンホステッド・ウォレットとは、例えて言うならば、銀行預金における現金のようなものだ」と説明。「例えば資金を銀行の預金に預けている限りは、銀行によるマネーロンダリング防止の監視下にあるわけだが、これをいったん現金として引き出してしまうと、その追跡は極めて困難になる。現金の場合は物理的な搬送が伴うので大金を動かすのは実質的な困難さがある一方、自己管理型のアンホステッド・ウォレットに収めてしまうと、その先の監視の仕組みは働かなくなってしまう」と指摘しました。
また、アンホステッド・ウォレットは匿名性が高いことから、ランサムウェアの身代金の受け渡しやテロ組織・犯罪組織による資金洗浄に利用される懸念もあります。この点について委員は「必ずしもアンホステッド・ウォレットの利用を推進・拡張したいと思うわけではない」とした上で、「ゲームアプリやNFTの取引のためにアンホステッド・ウォレットを必要とするケースもある」と指摘。枠組みを創設する狙いについて「仲介者を何の規制もかけず放置すると、管理できない状態が拡大することから、登録制を設けて、一定の制御の元に入れること」だと説明しました。
その上で、「(預金から)払い出しされてしまった現金を管理することができないように、アンホステッド・ウォレットに移された資金については、仮に業規制を設けても所詮その後のことは分からない」と述べ、改正が実現した後も制度を悪用する抜け穴が残るとの認識を提示しました。「今後、よりしっかりとした国際的な取り組みなどの中で、マネーロンダリング規制のようなものを考えていくべきだろう。その意味で、あたかも金融庁が称揚・推奨し、『ぜひ皆さん使ってください』と言っているかのようにくれぐれも誤解されないよう取り進め、引き続き暗号資産を取り巻くリスクを踏まえ慎重に検討を進めていくべきだ」と念を押しました。
昨年末に与党が取りまとめた税制改正大綱では、検討事項として「一定の暗号資産を広く国民の資産形成に資する金融商品として業法の中で位置づけ」るといった方向性が提示されていました。また、ほぼ同時期に自民党のデジタル社会推進本部と金融調査会が「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」を政府に提出。金商法を暗号資産に適用する議論が浮上し、各業界団体間での利害関係の食い違いも鮮明化しつつある中で、当局の立ち位置はますます難しくなってきています。