finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

暗号資産を奨励すべきか…?前のめりの与党、苦悩する当局

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.03.05
会員限定
暗号資産を奨励すべきか…?前のめりの与党、苦悩する当局

暗号資産を「国民の資産形成に資する金融商品」と位置付けて制度整備を進める機運が政府・与党内で高まっています。一方で、金融庁が事務局を務める金融審議会内では以前から、推進派と慎重派の委員の間で温度差もみられます。2月19日に開かれた金融審総会では、「暗号資産仲介業」の新設を盛り込んだ報告書を正式に了承。ただ一部の委員からは「暗号資産を奨励するつもりはない」との声が上がり、当局の難しい立ち位置をうかがわせました。

この日の総会では、金融審傘下の作業部会「資金決済制度等に関するワーキング・グループ」が1月に取りまとめた報告書を提出し、総会として了承しました。

この報告書では、暗号資産や電子マネー、ステーブルコインなどフィンテック分野に関する制度整備について、主に利用者保護の強化と参入規制緩和の観点から提言を整理しています。

 

暗号資産については、22年11月のFTX破綻時の教訓を踏まえ、暗号資産交換業者が金融商品取引業者の登録を受けていない場合であっても、当局として資産の国内保有命令を発出できるよう制度改正する方向性を示しました。

 

また、電子マネーの運営事業者を含む資金移動業者については、現行制度では仮に事業者が破綻した場合に資金還付手続きに170日以上を要することから、銀行や信託会社からの直接返還を解禁してよりスピーディに還付を受けられるよう制度整備することも盛り込んでいます。

 

報告書の中で特に注目を集めているのが、暗号資産交換業者と利用者の間に立って売買・交換の媒介を行う新たな仲介業の枠組みの創設です。

報告書では、アンホステッド・ウォレットと呼ばれる暗号資産の自己管理手段の普及を念頭に置いた新たな枠組みについて、①特定の金融機関を委託を受け、その金融機関のために仲介を行う「所属制」を採用すること、②財政的な参入規制を設けないこと、③AML/CFT(マネーローンダリング/テロ資金供与防止)の履行義務を課さないこと――といった方針を提示しています。

 

暗号資産の自己管理、監視の抜け穴にも

この日の総会では、報告書を取りまとめた作業部会のメンバーでもある有識者委員が、暗号資産仲介業の創設を盛り込んだ意義について語りました。

報告書では、制度改正を進める必要が生じた背景として、暗号資産の管理手段である「アンホステッド・ウォレット」の登場を挙げています。

委員は「アンホステッド・ウォレットとは、例えて言うならば、銀行預金における現金のようなものだ」と説明。「例えば資金を銀行の預金に預けている限りは、銀行によるマネーロンダリング防止の監視下にあるわけだが、これをいったん現金として引き出してしまうと、その追跡は極めて困難になる。現金の場合は物理的な搬送が伴うので大金を動かすのは実質的な困難さがある一方、自己管理型のアンホステッド・ウォレットに収めてしまうと、その先の監視の仕組みは働かなくなってしまう」と指摘しました。

 

また、アンホステッド・ウォレットは匿名性が高いことから、ランサムウェアの身代金の受け渡しやテロ組織・犯罪組織による資金洗浄に利用される懸念もあります。この点について委員は「必ずしもアンホステッド・ウォレットの利用を推進・拡張したいと思うわけではない」とした上で、「ゲームアプリやNFTの取引のためにアンホステッド・ウォレットを必要とするケースもある」と指摘。枠組みを創設する狙いについて「仲介者を何の規制もかけず放置すると、管理できない状態が拡大することから、登録制を設けて、一定の制御の元に入れること」だと説明しました。

 

その上で、「(預金から)払い出しされてしまった現金を管理することができないように、アンホステッド・ウォレットに移された資金については、仮に業規制を設けても所詮その後のことは分からない」と述べ、改正が実現した後も制度を悪用する抜け穴が残るとの認識を提示しました。「今後、よりしっかりとした国際的な取り組みなどの中で、マネーロンダリング規制のようなものを考えていくべきだろう。その意味で、あたかも金融庁が称揚・推奨し、『ぜひ皆さん使ってください』と言っているかのようにくれぐれも誤解されないよう取り進め、引き続き暗号資産を取り巻くリスクを踏まえ慎重に検討を進めていくべきだ」と念を押しました。

 

昨年末に与党が取りまとめた税制改正大綱では、検討事項として「一定の暗号資産を広く国民の資産形成に資する金融商品として業法の中で位置づけ」るといった方向性が提示されていました。また、ほぼ同時期に自民党のデジタル社会推進本部と金融調査会が「暗号資産を国民経済に資する資産とするための緊急提言」を政府に提出。金商法を暗号資産に適用する議論が浮上し、各業界団体間での利害関係の食い違いも鮮明化しつつある中で、当局の立ち位置はますます難しくなってきています。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #オルタナティブ

おすすめの記事

静銀ティーエム証券の売れ筋で再評価される「テック株」、米国株とは一線を画す「欧州株」も浮上

finasee Pro 編集部

【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?

森脇 ゆき

【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉

文月つむぎ

滋賀銀行で人気化の「ゴールド」と「インド株」、上昇勢いに乗る「順張り」と雌伏に賭ける「逆張り」の結果は?

finasee Pro 編集部

片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…

川辺 和将

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?
静銀ティーエム証券の売れ筋で再評価される「テック株」、米国株とは一線を画す「欧州株」も浮上
【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング
投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
滋賀銀行で人気化の「ゴールド」と「インド株」、上昇勢いに乗る「順張り」と雌伏に賭ける「逆張り」の結果は?
【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉
「動画を上げるぞ」「マスコミに流すぞ」に毅然と対応できる?――日証協の新カスハラ対策マニュアルの中身とは
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
【連載】こたえてください森脇さん
⑨顧客本位の実践より、自身の営業成績を優先している方が評価されていると感じる
投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】
【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?
【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉
滋賀銀行で人気化の「ゴールド」と「インド株」、上昇勢いに乗る「順張り」と雌伏に賭ける「逆張り」の結果は?
「動画を上げるぞ」「マスコミに流すぞ」に毅然と対応できる?――日証協の新カスハラ対策マニュアルの中身とは
【連載】こたえてください森脇さん
⑨顧客本位の実践より、自身の営業成績を優先している方が評価されていると感じる
静銀ティーエム証券の売れ筋で再評価される「テック株」、米国株とは一線を画す「欧州株」も浮上
中国銀行で売れ筋トップ10にランクインした「パワテク」、今年の新設ながら抜群の運用成績で脚光
投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング
【地域金融力の現在地-前編】横浜銀行、ひろぎんの目指す地域金融力の形とは?
【連載】こたえてください森脇さん
⑧ゴールベースアプローチを実践するための具体的な会話例は?
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
「動画を上げるぞ」「マスコミに流すぞ」に毅然と対応できる?――日証協の新カスハラ対策マニュアルの中身とは
【文月つむぎ】日証協の「個人投資家意識調査」を熟読すべし 新規投資家層の早期失望に備えよ
「支店長! 高齢者にリスク性商品を販売することは顧客本位から外れませんか?」
「支店長!融資が第一とおっしゃいますが、投信販売は重要ではないのでしょうか。担当する私たちの仕事が軽視されているように感じます」
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら