――米大統領選で共和党のトランプ候補が勝利し、再びホワイトハウスへ返り咲きます。
トランプ氏が再任されても金融サービス業界に新たな規制が追加されることはなく、経済成長促進と金融サービス・商品の利用拡大に重点を置いた政策がすすめられる可能性が高いと考えています。第1次トランプ政権では、一般の個人投資家に新たな投資機会を提供することを重要視していました。第2次政権でも、仮想通貨やプライベートアセットといったオルタナティブ資産へのアクセスを容易にし、一般の投資家による投資が活発になれば、米国の経済成長を後押しすることになるでしょう。
同時に、トランプ氏が提案した一連の減税政策は、すでに拡大している連邦政府の予算赤字に影響を及ぼし、米国債市場に圧力をかける可能性もあります。
――米国でミューチュアルファンド(オープンエンド型投信)が1924年に誕生してから100年を迎えました。
ミューチュアルファンドは少額の資金で分散投資ができ、その運用を専門家に任せることができるため、「金融の民主化」の推進役となりました。いまや米国の中間層の資産形成、たとえば教育費やマイホーム購入、退職後の資金準備に欠かせません。米国経済が過去100年で大成長を遂げてきたのも、ミューチュアルファンドという形で個人投資家の資金が市場を通じて企業に流入し、資金調達コストが低く押さえられた側面があることは見逃せません。
――日本では2024年1月から新NISAがスタートし、また足元では確定拠出年金(DC)にまつわる制度の改革に向けた議論も進んでいます。期待することは。
確定給付型年金(DB)からDCへのシフトは、米国に限らず世界的にみられる傾向です。世界経済の変化に応じて産業の動向も変化するなか、同じ企業に一生勤め続ける選択が現実的でなくなっている以上、よりフレキシブルなDCプランへの移行は必然の流れといえます。制度の拡充とともに、その制度を有効に活用していただけるように啓発する必要も生じます。日本もDCプランを発展させる方向へと歩みを進めるのであれば、同時に資産形成層に対する金融教育の充実も欠かせません。
――日本は米国と異なり、公的年金への依存度が大きい点をどう考えますか。
欧州でも公的年金が依然として支配的であり、その結果、公的年金が退職後の主要な収入源となっており、個人が投資活動に踏み切る制約となっています。欧州の政策立案者は、個人による自発的な貯蓄を促るための改革を含め、経済成長を加速する方法について積極的に議論しています。しかし、規制の複雑さや意思決定の遅さが改革を妨げています。一部の人々は、欧州が公的年金に依存しすぎており、私的年金制度があまり活発でないことが、資本市場の弱さにつながり、それが過去15年間の米国との経済成長の差を生んだと指摘しています。
日本は、欧州が歩んできた道をたどるべきではありません。日本の家庭がより確かで豊かな未来を確保するためには、個人がより多くの責任を持って退職後の資産形成を行うシステムに移行することが重要です。運用商品についても、元本確保型商品で安心だけを得られるようにするだけでは不十分です。日本政府は、株式投資を促進する投資機会を提供し、個人が株式のリターンを享受できるようにすべきです。この変革は不可欠であり、それ以外に道が開けるとも考えにくいのです。岸田文雄前内閣は新NISAを実現させましたが、石破茂政権でもDC改革などを通じて投資促進に向けた取り組みが引き続き前進することを強く期待します。