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石破首相が岸田氏から受け継いだ「レトリックのひな形」とは……所信表明演説を読み解く

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.10.08
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石破首相が岸田氏から受け継いだ「レトリックのひな形」とは……所信表明演説を読み解く

10月4日に行われた所信表明演説で石破茂首相は、経済政策については基本的に前政権の路線を引き継ぐ考えを強調しました。見かけ上の独自色の希薄さの背景に、総裁選を通じた旧岸田派との接近や準備期間の短さをみる向きもありますが、演説の前後の文脈に目をこらすと、「資産運用立国」の方向性を継承する決断に至った別の理由もみえてきます。

演説全体としては首相の得意分野である安全保障に関する比重が大きかった一方、経済政策については基本的に岸田路線を継承するスタンスを前面に出しました。

序盤で首相は、岸田政権下の政府の取り組みについて「経済、エネルギー政策、子供政策、安全保障政策、そして外交政策など幅広い分野において具体的な成果が形になった3年だった」と述べ、岸田氏に敬意を示しました。

そのうえで、経済については「賃上げと投資がけん引する成長型経済」「コストカット型経済から高付加価値創出型経済へ」「投資大国」という言い回しを用い、岸田路線の発展形を目指す姿勢をアピール。「イノベーションを促進すること等による高付加価値創出や生産性の向上、意欲ある高齢者が活躍できる社会を実現し、我が国のGDPの5割超を占める個人消費を回復させ、消費と投資を最大化する成長型経済を実現する」と説明しました。

また、「成長分野に官民を挙げての思い切った投資を行い、賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現を図るため、経済対策を早急に策定し、その実現に取り組む」と発言。岸田政権下で政府が取りまとめた「資産所得倍増プラン」(2022年)、「資産運用立国実現プラン」(23年)につづく、「投資大国」に向けた新たな文書を作成する可能性を示唆しました。

投資拡大策に関しては「貯蓄から投資への流れを着実なものとし、国民の資産形成を後押しする『資産運用立国』の政策を引き継ぐとともに、産業に思い切った投資が行われ、投資大国に向けた政策を講じる」と語りました。また、「(投資額拡大を目標に掲げた岸田政権の)スタートアップ育成5カ年計画を着実に進め、アジア最大のスタートアップハブを実現する」とも説明しました。

竹下氏の引用は「新プラン」への布石?

このように、首相が経済政策をテーマに掲げて語った部分だけを取り出してみると、石破氏ならではの独自色を見つけ出すことは難しいように思えます。

しかし、石破カラーの希薄さは、ある意味で当然かもしれません。筆者の見てきたところ、岸田政権が作り出した「資産所得倍増プラン」「資産運用立国実現プラン」の強みは、政策を推進する主体の独自色を巧妙に隠すところにあるからです。

たとえば岸田政権の初期には、「貯蓄から投資へ」の資産運用拡大策と、スタートアップ支援の拡大は基本的にそれぞれ別個の政策課題として、切り離して語られていました。しかし政権後期になると、金融・資産運用特区の創設やアセットオーナーを通じたオルタナティブ投資の促進策を通じて、2つの政策課題を一体的に解決する方針が鮮明化していきました。

「増税」のイメージ払拭が急務となるなか、補助金に依存せず政策的な注力分野を支援するリスクマネーの流路を確保する必要性から、投資促進策と資金供給策を文脈上一時的に切り離す、巧妙なレトリックのひな形を築き上げたともいえるでしょう。

石破首相は所信表明に先立つ全国証券大会での講演では、地方への投資の推進を強調していました。が、所信表明演説では、あえて地方創生で文脈で「投資」に言及することはありませんでした。

そのかわり、竹下登元首相の言葉を引き合いに出しつつ、金融機関を含めた地域の多様なステークホルダーが主体となって「知恵を出し合い、地域の可能性を最大限に引き出し、都市に住む人も、地方に住む人も、全ての人に安心と安全を保障し、希望と幸せを実感する社会、それが地方創生の精神だ」と述べました。

地方創生のくだりで金融業界に言及したのはこの一カ所きりですが、新内閣の求心力向上が急務となるなか、官民一体となった地方への資金供給拡大を新たな経済対策の一つの柱として打ち出したい考えをにじませた格好です。

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川辺 和将

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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