投信システム仕様標準化へ「2025年度内目途」明記
今回の金融行政方針では資産運用業改革について、(1)資産運用会社の競争力強化やガバナンス改善・体制強化、(2)日本独自のビジネス慣行や参入障壁の是正(3)金融・資産運用特区の推進(4)新興運用業者促進プログラム(日本版EMP)の実施――を柱に掲げています。
基本的には、すでに立国プランで打ち出した施策の焼き直しのような内容が並べられています。そんななか、(2)の参入障壁是正については、「資産運用会社が販売会社と投資信託の情報をやり取りする公販ネットワークについて、関係者と連携しつつ、システムベンダーに対し、2025年度内を目途に互換性を確保するよう促す」と記載しています。
公販ネットワークについては金融庁が昨年公表した「資産運用業高度化プログレスレポート2023」の中で、市場の効率性の阻害要因として問題提起していました。公販ネットワークは、投信の基準価格、設定・解約、分配金、手数料などの情報を販売会社や組成会社の間でやり取りする際に必要なインフラの役割を担っています。
公販ネットワークは限られた事業者の寡占状態にあり、市場原理が働きにくいことが金融機関のコスト増につながっているとの指摘があります。また、公販ネットワークを提供している数少ないシステム会社の中でも仕様がバラバラで互換性がないことも問題視されています。同レポートでは公販ネットワークの仕様について標準化を進めることで、「資産運用業界全体の効率性改善に向けて、自主規制団体が、当局や関係機関とも連携し、必要な調整を行うことが期待される」と記載しています。
その後、「資産運用立国実現プラン」の策定に向けた投信システムまわりの議論の過程では、投信の基準価格の計算作業が運用会社と信託銀行などで重複している「二重計算問題」に焦点が当てられました。今回の金融行政方針では、2025年度内目途というスケジュールを初めて提示し、公販ネットワークに関する環境整備の調整を民間事業者と進めていく姿勢を改めて打ち出しました。
書面決議不要の約款変更の範囲拡大、「償還」が焦点か
また、「投資家保護に支障のないと考えられる投資信託約款の変更の類型について明確化等を検討する」とも記載しています。投信約款の変更をめぐっては、法律上「重大な約款変更」に該当する場合、販売会社を巻き込んで受益者の書面決議を実施する必要があり、事業者にとって大きな負担となります。昨年の金融審議会市場制度ワーキンググループ傘下の作業部会(「資産運用に関するタスクフォース」)では、書面決議が必要ない約款変更の範囲を明確化すべきとの声が上がりました。具体的な例として、「単一指数から複数指数への変更によるプロバイダーフィーの低減」「一者計算の導入によるオペレーションコストの低下」「投資家保護強化のための新たな措置の導入」「不芳ファンドの繰上げ償還」といった類型を挙げています。
一方で繰上げ償還については受益者への影響が大きいことから、同じ作業部会の一部参加委員から、書面決議を撤廃することに慎重な意見も上がっていました。金融庁が今後、2014年に公表した「投資信託に関するQ&A」の改訂を通じて重大な約款変更の範囲を明確化するうえでは、繰上げ償還の扱いが一つの焦点となりそうです。
また、例年は金融行政方針と同時、より具体的な施策の方向性を整理した「作業計画」を公表してきましたが、今回は同時公表を先送りしました。ある金融庁幹部は「公表は9月下旬以降になる」と説明します。業界内では、岸田氏の現行プランの方向性を自民党次期総裁がどの程度受け継ぐのかを不安視する声も聞かれますが、同時公表の見送りからは、総裁選の行方を見定めたうえで具体策を固めたい当局の思惑もうかがえます。