当局はリスク・リターンの「販売後検証」求める
ここ数年、金融庁は金融機関に対し、商品販売後のリスク・リターンの検証を求める姿勢を強めてきました。
EBなど複雑な仕組債などについてはこれまでも、すでに販売した金融商品の運用状況に関するデータを収集、整備したうえで、運用実績や投資効率を分析し、商品ラインアップの改善に活かすよう業界側に求めていました。
今年7月に金融庁が公表した「リスク性金融商品の販売・組成会社による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果について」(FDレポート)では、仕組債のみならず、外貨建保険など幅広いリスク性商品についてFDの観点から事後検証のための体制を整備するよう促しています。
また、同月に公表したFD原則改定案でも、投資信託などの組成会社において「恣意性が生じない適切な検証期間の下でリスク・リターン・コストの合理性を検証すべき」と記載。そのうえで販売サイドとの情報連携を通じ、製販全体として「顧客の最善の利益の実現」を目指すよう促す内容となっています。
当局が事後検証を求める情報発信を重ねてきた狙いについては、「いつか為替が円高に振れ、金融機関で苦情が増えた場合への布石を打っている」(地銀幹部)との見方もありました。
FDレポートにおける当局の分析では、円安のただ中だった調査時点での外貨建て保険の運用実績を要素分析したところ、リターンの大半を為替効果が占める結果になりました。レポートは、円高によって為替効果が剥落すれば、解約手数料などのコスト、債券価格下落による市場価格調整によって運用成果がマイナスに転じる可能性を示唆しています。また、主要行などで販売が増加傾向にあった仕組預金についても、プットオプションの売りといったデリバティブを組み込んでいるため、円高時の元本割れリスクを指摘していました。
幹部「結果論での商品批判はしない。ただ…」
FD原則とFDレポートはいずれも、顧客本位の業務運営というプリンシプル(法的拘束力のない行動規範)の観点で商品検証などの対応を促しています。とはいえ、近く改正金融サービス提供法が施行され、金融機関に新しく課される「最善利益義務」が創設されれば、法律上のルールの文脈でも同様の対応が奨励される可能性があります。
金融庁監督局がこのほど正式に公表した資料「商品・サービス及び業務のライフサイクル管理に関する基本的な考え方」は、最善利益義務の創設に触れつつ、「商品等の継続的な管理態勢」に関しては、商品導入後において「(環境変化などによって生じる)リスクが顕在化する前に特定し、リスク管理態勢の強化やオペレーションの見直しを行う、あるいは自社の経営戦略と不整合となっているのであれば商品の取り扱いを停止する決断を行うことが、商品等のライフサイクル管理の要である」と記載しています。取扱件数、金額、苦情、事務事故件数などのデータ整備を通じてリスク変化を検知し、効率的に商品リストなどの見直しを行うよう促しています。
ある幹部は「結果論によって商品性を糾弾、批判することはありえない」と前置きしたうえで、「これまでの円安局面において外貨建て商品の販売が集中していた中、仮にリスクに関する説明が不十分だったために足元で苦情が増加しているとなれば、現状の販売体制に問題がなかったのではないかとうい点が関心事となる」と説明します。波乱相場下でいかにして顧客の「最善利益」を追求しつづけるか、官民がコミュニケーションの中で議論を深めるきっかけにもなりそうです。