MUFGへの報告徴求命令も
金融庁によると3社・行は、情報共有の同意を得ていない法人顧客に関する非公開情報を繰り返し授受。一部の非公開情報については、銀行側の専務執行役員(当時、以下同)も自ら提供を行っていたといいます。
あるケースでは銀行側に対し、企業側が株式の売出に関する非公開情報について証券会社側に情報提供をしないよう念押ししていたにもかかわらず、主幹事としてのポジションを獲得するために、銀行側が売出の実行時期や金額についてMUMSSに伝達していました。また、別の企業が予定していた企業買収について、買収資金に関する融資契約を結ぶ過程で情報を得た銀行側が、秘密保持契約を結んでいたにもかかわらず、その情報をMUMSSに提供していた事例もあったといいます。
この他に、企業の社債発行について証券側の提案内容が他社と比べ見劣りしている状況を知った銀行側が、別件の融資について、金利スプレッドの引き下げなど条件を変更してMUMSSが引受シェアを得られるよう交渉し、実際に、MUMSSが幹事に指名されたケースもあったということです。
金融庁は3社に対する業務改善命令と別に、三菱UFJ銀行と三菱フィナンシャル・グループに対し、銀行法に基づく報告徴求命令も発出しました。
MUFGは一連の処分を受け、「関係者の方々にご迷惑、ご心配をおかけしていることを、心よりお詫び申し上げます」とコメントを公表。子会社において「銀証連携ビジネスの実態に適した管理態勢の整備が不十分であったものと認識しており、かかる事態を招いたこと重く受け止めております」とし、「短期的には事例や実態に即した手続・ルールの策定と浸透、中長期的にはシステム開発も含めたモニタリング体制強化」を検討すると説明しています。
独立系vs銀行系、競争環境は変わったのか
今回の摘発について、業界内では、「既にSMBCはブロックオファーの件が棚ぼた的に発覚しており、みずほについてはシステム障害のことがあり"危ない橋"を渡らせられない。消去法的に三菱がマークされていたのではないか」(事情通)との観測もささやかれています。独立系証券と銀行券証券の勢力争いに規制当局が巻き込まれているのではないかとの疑念の声もくすぶっています。
同一グループ内の銀証間で顧客情報のやり取りを制限するFW規制自体は、1993年施行の金融制度改革法により銀行の子会社による証券業参入を解禁したことを受け、証券会社間の公正な競争環境を確保する目的で設けられました。導入から30年余りが経過し更なる規制緩和に向けた機運が浮沈する中、あえて当局がメガバンクの一角に対する業務改善命令発出に踏み切ったことで、「壁」の存在意義そのものをめぐる議論の過熱とあいまり、処分の意図をめぐってさまざまな憶測を呼んでいる格好です。
処分同日に開かれた報道機関向け説明会でも、競争環境が変化する中でFW規制を継続する意義について問う声が上がりました。金融庁幹部は、「93年に導入されたルールが残る意義は十分にあるので、緩和されつつも残っているということだと思う」と説明。「だいぶ時間が経ったので、独立系証券の方に(壁撤廃に)備える準備の時間があったのではないかという意見もある一方、逆に言えば、93年の時点では全くなかった銀行系証券会社はその後、業務をどんどん拡大し、力をつけている部分もある。競争環境については、そういうことを含めて総合的に勘案する必要があるだろう」と述べました。
また、「被害者不在」との意見について監視委の幹部は「直ちにデメリットが生じるものでないとしても、融資条件の緩和などによって有価証券の発行条件等が歪められ、資本市場の健全な発展、公正な競争環境の確保に影響があると思う」と説明しています。