米国と日本で異なる寄付文化の定着度。差はどのようにして生まれているのか
――グローバルに活動を行うカーライル・グループとしては、どのような寄付の取り組みをなさっているのでしょうか。
会社としての寄付は米国ワシントンD.C.の本社を中心に取りまとめていますが、エリアによってニーズやサポートの方法も異なるため、基本的には各拠点がバジェットを組んで支援活動を行う形になっています。米国本社の寄付額は日本とはケタが違いますし、共同設立者のデービッド・ルーベンスタインをはじめ、個人での寄付も盛んですね。
米国にはマイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏や投資家のウォーレン・バフェット氏が創設した「ギビング・プレッジ(The Giving Pledge)」というビリオネアに向けた寄付啓発活動があり、そこでは参加者が生前または死後に財産の50%以上を寄付することを推奨しています。テスラCEOのイーロン・マスク氏、メタ共同創業者のマーク・ザッカーバーグ氏らもこの活動の賛同者です。米国では富裕層に限らず、寄付が可能な立場であれば積極的に寄付をしようという寄付カルチャーがあります。
それは個人だけでなく会社にも浸透していて、米国の企業には従業員の寄付を促進する「マッチングギフト制度(Matching Gift Program)」を導入しているところが多いですね。従業員が寄付をすると、それと同額か一定分を上乗せした額を企業も寄付をするという制度です。当社では従業員1人につき年間2000ドルまでが制度の対象になっています。
――長年実績を重ねられてきた中で、寄付活動に手応えを感じられている部分はありますか。
手応えよりもむしろ力不足を感じています。世の中にはサポートを必要とされている方がまだまだたくさんいらっしゃいます。当社の寄付や支援だけではそうしたニーズに到底追い着きません。国の施策に加えて、企業や個人が手軽にサポートできるような仕組みを作っていく必要があると感じています。
――行政が後ろ盾となり、漠然と寄付に興味を持っている人々が一歩を踏み出せる仕組みが必要であるとお考えになっているわけですね。
有名な寄付制度としては、総務省の「ふるさと納税」があります。返礼品というベネフィットをきっかけに寄付を始めること自体、否定するものではありませんが、一方で、今、日本がどのような社会課題を抱え、それで困っている人がどれくらいいて、どれくらいのお金が必要で、目標額を集めることでその人たちがどう助かるのかといった告知はきちんとすべきでしょう。
日本でも年々寄付のポテンシャルが高まっていますが、そうした潜在寄付者に共通するのが「どこに寄付をしたら、自分のお金が有効に使われるのか」という素朴な疑問です。しっかりした寄付の受け皿があれば、本当に必要なところに必要な資金が回るサステナブルな仕組みが醸成されていくのではないかと思います。
その好例が、国立科学博物館が2023年に実施したクラウドファンディングです。同館は動植物や化石などの標本を国内外から500万点以上採集していますが、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う入場料収入の減少や光熱費高騰による支出増などで、財政が危機的状況に陥り、1億円を目標に寄付を募ったのです。熱心な利用者などがこれに反応し、3カ月ほどで目標額を大きく上回る9億円超が集まりました。
同館の取り組みはメディアで大きく取り上げられ、世の中の関心を集めました。メディアは非常に重要ですが、クラウドファンディングのようなスポット的なアプローチに限らず、例えば、多くの情報が掲載されていて、自分の興味のあるテーマを選んで手軽に寄付ができるチャネルがあってもいいのではないかと思いますね。