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もはや別モノ?金融庁検討会で「インパクト投資指針案」大幅修正版を提示

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.03.04
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もはや別モノ?金融庁検討会で「インパクト投資指針案」大幅修正版を提示

金融庁で2月20日、「インパクト投資等に関する検討会」が開かれ、事務局側は「インパクト投資に関する基本的指針案」の修正版を提示しました。昨年公表した当初案で示していたインパクト投資の定義に関する表現を大幅に和らげたうえ、既に取り組みを始めている事業者に新たな制約を課さない方向性が記載されるなど、事業者側への配慮を随所でにじませる内容となっています。

日本版「インパクト投資4要件」を修正

基本的指針案をめぐっては、検討会が昨年6月に策定した報告書の中で当初案を公表。10月まで意見募集(パブコメ)を実施していました。

 

インパクト投資の市場は国内外で年々拡大傾向にあるものの、何をもってインパクト投資とするか、厳密な定義をめぐってはさまざまな議論があります。

一般的なインパクト投資の定義としては、国際的な推進枠組みの一つであるGIIN(Global Impact Investing Network)が掲げる4要件(①意図②収益性③資産多様性④管理・測定)が知られています。

検討会が作成した基本的指針の当初案では、GIIN4要件のおおまかな構成を踏襲しつつ、日本独自の新たな4要件を打ち出していました。

 

※昨年6月時点の当初案でのインパクト投資4要件

①実現を「意図」する「社会・環境的効果」や「収益性」が明確であること(Intentionality)

②投資の実施により、追加的な効果が見込まれること(additionality)

③効果の「特定・測定・管理」を行うこと(identification/measurement/management)

④市場や顧客に変化をもたらし又は加速し得る新規性等を支援すること(innovation/transformation/acceleration)

 

当初案のうち①から③はGIINの要件とほぼ同じです。④の新規性支援については、政権が主要政策課題の一つとして掲げるスタートアップ支援策との親和性の高さを窺わせる記載ぶりとなっていました。

 

※今回の修正版でのインパクト投資4基本的要素

①実現を「意図」する「社会・環境的効果」が明確であること(Intention)

②投資の実施により、効果の実現に貢献すること(Contribution)

③効果の「特定・測定・管理」を行うこと(Identification/measurement/management)

④市場や顧客に変革をもたらし又は加速し得るよう支援すること(Innovation/transformation/acceleration)

 

今回事務局が提示した修正版では、要素を「基本的要素」という表現に置き換えたうえで、①からは、基本的指針の他の記載と重複していた「収益性」が除外されました。②は効果の実現が「見込まれる」ではなく、実現に「貢献する」と変更されました。また、④ではGIIN4要件と異なる独自性を打ち出していた「新規性」という表現が外され、かわりに「変革」という書きぶりに改められています。

 

大幅修正の理由は

基本的指針の修正版では、ほとんど全てのページにわたって赤字が入り、文書の表題やインパクト投資そのものの定義など指針の根幹に関わる部分にまで手が加えられています。なぜ、これほど広範囲に修正が及ぶことになったのでしょうか。

 

会合で事務局側は、国外の推進枠組みや国内の業界団体などから200件近くの意見が寄せられ、全体としては賛同する趣旨のコメントが多かったと説明。そのうえで、インパクト投資の「要件」を「基本的要素」と改めた理由については「(報告書に記載された)要件を守らなければインパクト投資ではないというように読めるので、新しいマーケットが成長段階にあることを踏まえると、(表現が)厳しいのではないかというコメントをいただいた」と述べました。

4つ目の要素から「新規性」の言葉を外した背景については、「(全く新しい技術や製品を開発する場合だけでなく)既存の技術を大きく拡大したり、他の地域に拡大したり、既存のインフラを生かして新しい技術を社会全体に浸透させたりというものもある」として、「新規という言葉は控えた方がよいのではないかというコメントが非常に多かった」と説明しました。

 

また、当初案では仮に投資が行われなかった場合と比べ、投資先の事業等がどう変わったかをわかりやすく説明することが求められていました。ただ、投資が行われなかった状況について仮説を立てて検証することは困難との声もあり、説明を求める記載が除外されました。

 

新興だけでなく上場企業、中堅中小企業も投資対象に

さらに、当初案の記載ぶりにおいてインパクト投資をスタートアップ支援と結びつけるニュアンスが強すぎるという趣旨の指摘を受け、対象となる企業としてユニコーンだけでなく「インパクト実現を価値創造の中核に置く上場企業、地域の伝統価値を活かしたビジネスモデルの再展開を図る中堅・中小企業」、そして「地域発の創業企業」が加えられました。

 

また、既にインパクト投資を掲げるファンドを手掛けている金融機関などに配慮し、「本指針は、インパクト投資として実現が望まれるこれらの要素を示すことで、インパクト投資の基本的な考え方等について共通理解を醸成し、市場・実務の展開を図ることを目的とするものであり、詳細な投資の要件を定め、現在取組みを進める市場関係者の様々な創意工夫を規制・制約するものではない」との記載を新たに盛り込みました。

 

検討会は近く、指針の最終版に取りまとめる見通しです。

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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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