1.銀行取引における粉飾決算問題
株式が上場されていない中小企業に対して行われる銀行融資取引においては、粉飾決算への対応というのは古くて新しい課題である。弊社が非上場企業に対するクレジットスコアリングモデル(以下モデルと称する)の構築を1990年代後半に試行し始めたとき、中小企業は必ず粉飾しているので倒産やデフォルトに関わる法則性というのは見出しづらいのではないか、という疑念を多くの識者から頂いた。
その後、利用可能なデータが増えるに従って中小企業でも一定の精度を持つモデルを構築することができることが確認され、バーゼルⅡの施行に伴う内部格付手法の実装において統計的なモデルをエンジンとして制度を構築するプラクティスが一般化した。ただし、上場企業と非上場企業のベストプラクティスのモデルを比較すると、非上場企業のモデルの精度は上場企業のそれと比較して常に一定程度劣後しており、マクロ的観点から見て粉飾を含む会計の適切性の水準に由来するノイズが非上場企業には存在していることが示唆された。
粉飾という現象を理解するためには融資を受ける中小企業の立場に立って考えると整理が容易だ。典型的な粉飾行為は以下のような過程を辿ると考えられる。