政治的分断、規制の動向……ESG投資自体の持続可能性は?
では2023年以降、ESG投資を含むサステナブルファイナンスは勢いを取り戻すのか。それともESG投資に批判的な論者らが主張するように、流行り廃りのあるテーマ投資のように忘れ去られてしまうのか。中空氏も小野塚氏も、反ESGの動きが一部継続する可能性は否定できないとしつつも、サステナブルファイナンス全体の拡大基調は今後も変わらないとの認識で一致する。
小野塚氏は「昨年」「今年」、そして「今後」のESG投資に関わる注目テーマを挙げたうえで、「2023年は混乱からの回復と規制の本格導入への対応」がテーマになると見ている(図2)。
トランプ政権時代のように政治の分野で反ESGの動きが再び顕在化している米国では、共和党系勢力を中心にESGに懐疑的または否定的な論者が存在し、有権者から一定の支持を集めている。「気候変動対策に反する資金の流れを作ったほうが有権者の気を引きやすい産業や地域があるのは事実で、そうした一部の人々にとって反ESGのメッセージは心地よく響くでしょう」と、中空氏は指摘する。
ただしESGを推進する民主党系勢力と反ESG論者との対立については、「基本的に債務上限問題などと同様、一種の政治ショーとして扱われている面があります。それに反ESGはあくまで一部のエキセントリックな動きであり、米国全体の動きと取り違えて『米国のESGは終わった』と解釈するのはミスリードにつながりかねません」と、注意を促す。
またESG投資にまつわる規制の動向も、今後のカギを握るファクターだ。近年ESG投資が存在感を増すにつれて、各国では「ESGウォッシュ」と呼ばれる見せかけのESG投資をめぐる規制強化の動きが目立ってきた。
実際、EUで2021年3月に施行されたSFDR(サステナブルファイナンス開示規則)をめぐっては、最も条件が厳しい「9条」ファンドのサステナブル投資の割合に最低基準を設けるルールが策定されたことを受け、昨年末には9条から8条への格下げの動きが相次いだ。ところが今年4月、欧州委員会が一転、9条ファンドに最低基準を求めない方針を打ち出したことで、「9条格下げ」のトレンドは収束していくとの見方もある。ESG投資の最先端を行く欧州でさえ規制に揺り戻しのような動きが見られること自体、ESG投資が現在進行形で変化し続けていることのあかしとも言えるだろう。
「ウォッシュが問題視されたり規制がかけられたりするこうした一連の流れは、ESG投資が拡大するプロセスの一場面としてある意味当然のことと言えます。何事も創成期があって、ある一定のマジョリティが形成され、そして揺り戻しが来てさらに進化する。今は、そうした揺り戻しの時期にあたるのではないでしょうか」と中空氏は語っている。
日本でも金融庁が5月に監督指針を改正し、ESGを投資先選定の判断材料に含める際のハードルが引き上げられた。こうした動向について小野塚氏は、「制度によってESG投資の捉え方に関するコンセンサスを作り出すことの意義は大きい一方で、規制強化の副作用にも留意が必要」と指摘する。