帰宅後に明かされた夫の本音

夜、陽向と紬を寝かしつけたあと、楓は佑輔とダイニングテーブルを挟んで向かい合った。義実家から帰ってからも、昼間の話がずっと胸に引っかかっている。どこから切り出そうか迷っていると、佑輔が先に口を開いた。

「俺、同居するつもりないから」

「そうなの?」

思わず聞き返した。

佑輔は一人息子だ。今日も義父がそれを強調していたし、佑輔自身にも親孝行しなければという思いがあるようだったから、最後には受け入れるつもりなのかもしれないと楓は考えていた。

「そもそも結婚するときだって、俺は同居するなんて一言も言ってないんだよ」

「それは、まあ……必要になったら考えるって話だったよね」

「ああ。結婚前に揉めたくなかったから、そう答えただけ。向こうは約束したと思い込んでるみたいだけどさ」

佑輔は困ったように息を吐いた。

楓にも当時の記憶はあったが、やはり「必ず同居する」という話ではなかった。それでも義母たちの中では、いつの間にか決定事項になっていたらしい。

「佑輔がそう言ってくれてよかった。でも、本当に断っていいの?」

「もちろん。一緒に暮らすって簡単な話じゃないでしょ。それに、親が組んだローンを俺たちが払うなんて論外だと思う」

その言葉を聞いて、楓の肩から少し力が抜けた。ただ、同居を断ればすべて解決するとも思えなかった。特に追加の援助を拒んだせいで、本当に義両親が困るような事態は避けたい。

「あのさ、毎月の仕送りのことはどう思ってる?」

「病院代が大変だっていう話だったからな。子どもとして親を助けるのは仕方ないと思ってたよ」

「私も、それは同じなの」

楓はうなずいてから、気になっていたことを口にした。

「でもね、毎月仕送りを受け取っていて、それでも定年後にローンが払えないほど生活が苦しいのなら、実際どれくらい大変なのか知りたいかも」

「確かに……親父には退職金も入るはずなんだよな」

佑輔が腕を組んだ。

考えてみれば、2人とも義両親から「家計が苦しい」と聞いただけで、収入や貯金がどれほどあるのか確認したことはない。住宅ローンが残っていることさえ、今日まで知らなかった。

「お義母さんたちが本当に困ってるなら、助ける方法を考えたい」

「じゃあ、1回ちゃんと家計の状態を説明してもらうか」

「教えてくれるかな」

「金を出してくれって言うなら、それくらい聞いてもいいだろ」

「そうだね。じゃあ、状況を見てからどうするか考えようか」

まだ結論が出たわけではない。だが、義両親の申し出に対して、佑輔が自分と似た感想を持っていたと分かって、少し気が楽になった。

楓はキッチンに立ち、温かいお茶を淹れるために湯を沸かし始めた。

●通院費などで家計が苦しいという義両親へ、数年前から毎月3万円を援助してきた楓と佑輔。ところが義父の定年を前に、同居と残る住宅ローンの負担まで求められたことで、2人はこれまで詳しく知らなかった義実家の家計を確認することにする…… 後編【「母さん、正直に言って!」毎月3万円を援助してきた息子夫婦…義両親の通帳に並ぶ“謎の出金”】にて、詳細をお伝えします。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。