当然のように援助を求める義母
週末の昼、楓たちは約束どおり義実家を訪れていた。
昼食のあと、陽向と紬は祖父母に遊んでもらってはしゃぎ回り、隣の座敷で並んで眠っている。居間には楓と佑輔、義母と義父の4人だけが残った。しばらくは子どもたちの成長や仕事の話をしていたが、義父が湯呑みを置くと、空気が少し変わった。
「俺も来年で定年だからな。今までと同じってわけにはいかなくなる」
「そうですよね。長い間お疲れ様でした」
楓が答えると、義母が待ち構えていたように身を乗り出した。
「それでね、そろそろ前に話していたことを決めたいと思って」
「前に話してたこと? 何かあったっけ?」
「ほら、結婚するときに言ったでしょう。お父さんが仕事を辞めるころには、一緒に住んでほしいって」
佑輔の表情が曇った。楓もその話自体は覚えている。ただし、同居が決定事項になった記憶はなかった。
「母さん。必要になったらそのとき考える、とは言った。でも同居すると約束したわけじゃないぞ」
「同じことじゃない。少なくとも、私たちはそういうつもりでいたのよ」
義母は心外そうに眉を寄せた。続けて義父が、まだ住宅ローンが数年分残っていることを打ち明けた。
「だから、佑輔たちにこっちに来てもらいたいの。一緒に住んで生活費をまとめれば、すぐに返せると思うから」
「夫婦2人とも働いてるんだ。そのくらいは余裕だろう」
話を聞くうちに、楓の中の違和感が大きくなっていった。
「ちょっと待ってください。家のローンまで私たちが払うってことですか?」
「だって、一緒に住めば今の家賃はいらなくなるでしょう? その分をこっちに入れてくれればいいだけじゃない」
義母は当然のように答えた。
だが、楓たちには、陽向と紬の教育費も、自分たちの老後の貯蓄も必要だ。同居で浮いた住居費を住宅ローンへ回すだけ、という単純な話ではなかった。
「でも、子どもたちにもこれからもっとお金がかかりますし……」
「今はそんなにお金もかからないでしょう? 一緒に住めば、私が面倒を見てあげられるし、楓さんもフルタイムに戻れるわよ」
「それは、そうかもしれませんが……」
楓が返事に詰まると、今度は義父が佑輔へ視線を向けた。
「お前は一人息子なんだから、両親のことを考えるのは当然だろう」
「分かってる。でも、今すぐに決められることじゃないよ」
佑輔は冷静に答えた。
「楓と2人で話して決めるから」
「じゃあ早めに返事してね。こっちにも予定があるから」
義母は不満そうだったが、それ以上は追及しなかった。
義実家を出て車に乗っても、楓はしばらく黙っていた。運転席の佑輔も無言のままエンジンをかける。車内には、後部座席で眠る娘たちの寝息だけが聞こえていた。
