新居にすべて持っていきたい早希
「え? じゃ、じゃあこれだけ捨てて、あとは全部新居に持っていくってこと?」
「……だ、ダメかな?」
徹は困惑しながら説明した。
「い、一応趣味用の部屋はあるけど、さすがにこれ全部は入らないよ。入ったとしても、他のものが入らなくなるって」
「……だよね。でもどうしても処分するのは……」
「でも、ここにあるのは読み終えた本なんだろ?」
早希は首を横に振った。
「ううん。半分以上は積読かな」
積読……つまり、まだ読んでいない本というわけだ。
徹は改めて部屋の中を見渡した。
「でもさ、かなりの量じゃん。これを全部読むって難しいと思うよ。だから本当に読みたいものだけ厳選してみれば?」
「……どれも本当に読みたい本だよ」
早希はうつむきながらもしっかりとした言葉で返してきた。
「でも実際には読んでないわけだし。それって読みたいって気持ちがあんまりないってことじゃないの?」
そこで早希は鋭い視線を徹に向けてきた。
「私は読むのが遅いから時間がかかってるだけ。興味がなくなってるわけじゃないよ」
「……じゃあ全部PDFにしようよ。カメラで撮って電子で保存したら場所も取らないから。もしくは電子で買い直してもいいし」
徹はここ最近はもっぱら電子書籍派だった。管理も楽だし、いつでも読めて便利だと思っていた。
「……電子化されてない本も多いし、私は電子書籍苦手だから。紙のほうがいいの」
「だったら読みたくなったときに買い直せばいい。全部古本で安く買えるようになってるだろうし」
徹は穏便に提案を続けるが、早希は全く受け入れようとせず、そんな早希の強情さに徹は苛立ちを覚えた。
「これ全部持ってくなんて無理だって分かるだろ? 一緒に内見したんだからさ」
「……趣味の部屋に本棚を置けばいけるかなって思ったんだけど」
「だったら俺はどうするの? 俺の荷物はどうでもいいのか?」
徹は熱くなって質問を重ねた。早希は袖をつかんで何も言わなくなった。
「俺だってけっこうな数のCDとかレコードとか処分しようとしてるのにさ……!」
「……でも全部大事なものだから」
全く聞き入れようとしない早希に、徹は鋭く尖ったため息をついた。部屋には気まずい沈黙が流れた。
●結婚を見据えた同棲準備のため、恋人・早希の部屋を初めて訪れた徹。そこで大量の本を目にし、新居には入りきらないとして処分を求めるが、すべて大切だと譲らない早希と衝突。新生活を目前に気まずい沈黙が流れる…… 後編【「何で2人して大事なものを捨てようと…」同棲直前に衝突した2人がたどりついた意外な解決策”】にて、詳細をお伝えします。
※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。
