<前編のあらすじ>

32歳の徹は、交際半年の恋人・早希との結婚を意識し、同棲を始めることに。引っ越し準備を進める中、荷物整理を手伝うため初めて早希の部屋を訪れる。そこで徹は、壁一面の本棚や積み上がった大量の本に驚く。

徹は新居の趣味部屋には入りきらないと考え、本を厳選したり、電子化したりする案を提案する。しかし早希は、どの本も読みたい大切なものだとして手放すことに抵抗する。

自分もCDやレコードを処分する予定の徹は、早希にも整理してほしいと主張。早希は「全部大事なものだから」と譲らず、徹も「俺の荷物はどうでもいいのか?」と感情的になってしまった。

●前編【「俺の荷物はどうでもいいのか?」同棲先に大量の本を持ち込みたい恋人と衝突…彼氏が放った禁断の一言】

互いに捨てようとしていた大切なもの

「……ちょっと、いったん外出るわ」

徹はそれだけ告げると、早希の部屋を出た。早希も止めるそぶりは見せなかった。

これ以上何か言い合っても感情的になるだけで話は進まないだろう。ひとまずは頭を冷やして冷静になる時間が必要だった。

マンションの外へ出て、大きく息を吸い込んで吐く。冷たい風に当たり、少しずつ怒りが静まっていくような気がした。徹は近くの住宅街をゆっくりと歩いた。

広いとはいっても、新居の広さは限られている。2人で暮らす以上は、お互いの荷物を整理する必要だってある。

徹もコレクションしているCDやレコードをある程度は手放すつもりでいる。だから同じように早希にも本を整理してほしかった。

「同じように……?」

そこまで考えて、徹は足を止めた。

「……何で2人して大事なものを捨てようとしてるんだろ」

徹が同棲を持ちかけたのは、早希ともっと一緒にいたかったからだ。早希と楽しく暮らしたかったからだ。同棲は2人で幸せになるための提案のはずだった。

それなのに今はお互いに我慢し、諦め、折り合いをつけることばかりを考えている。もちろん限られた広さなので何でも持ち込めるわけではないが、捨てることを考える前に、ほかに何かできることがあるのではないかと思った。

――ちゃんと早希と話をしよう。

徹はすぐさまUターンしてマンションに戻った。