互いの価値観を伝え合う2人

徹が再びインターホンを押すと、早希が気まずそうな顔でドアを開けた。

「ごめん、急に出ていったりして」

「ううん、いいの」

そのままリビングに戻ると、早希がキッチンに足を向けた。

「何か飲む? せっかく来てくれたのに何にも出してなかったね」

「あ、いや、いいんだ。それよりもちょっと話をしよう」

2人でソファに座り、最初に徹は頭を下げた。

「さっきはごめん。簡単に処分しろとか言うべきじゃなかったよね。早希の大事なものなのに、俺の価値観を押しつけてしまってた」

「……いや、でも徹がそう思うのも無理ないし。それに私もごめん。私も2人で住む家のことなのに、自分のことばかり考えてた」

「いや、早希は何も悪くないよ」

「昔から本が好きでさ。読んでない本がたくさんあるってことが幸せだったんだ。まだこんなに楽しいことが残ってるって目に見えるだけで、仕事とかも頑張れるから」

「そうか。そういうことだったんだ。ごめんな。読んでない本を無駄なものみたいに言っちゃって」

すると早希は頬を緩ませた。

「でも、ちゃんと処分しようと思う。これからは徹が家にいてくれるから、本が少なくても大丈夫だと思う」

早希なりに答えを導き出してくれていた。自分の気持ちを押し殺した答えだと分かり、徹は早希の手を握った。

「早希、俺ちょっと考えてみたんだ。2人で楽しく暮らすための引っ越しなのに、なんで我慢したり諦めたりしなくちゃいけないんだろうって」

「……そうだけど」

「諦めるんじゃなくて、どうにかして2人が大切にしているものを残せる方向で考えてみよう。俺もいくつか案はあるんだけど、早希の考えも聞きたくてさ」

早希は戸惑いながらもうなずいた。