2025年末から2026年の初めにかけて、日本国債の長期金利が急激に上昇し、話題になった。そんな国債の安定発行に向け、発行計画を策定するのが、財務省の理財局国債企画課だ。現在、個人向け国債の発行や海外投資家へのヒアリングなど、従来よりも幅広い投資家層への訴求を推進している。そんな同課がどのように日本国債市場を見ており、2026年度に国債を発行していくのか。同課の課長である佐野美波氏に話を聞いた。※取材は2月12日に実施。
〇前編:長期金利の急上昇が話題になった日本国債発行体である財務省国債企画課は市場をどう見ているのか【前編】
個人向け国債は定着するか
――個人向け国債の発行額も増え、販売対象は非営利法人等へ拡大を予定しています。個人向け国債のニーズについてはどのように考えていますか?
個人向け国債は取扱金融機関の窓口を通じて募集しているため、財務省では直接お客様と接する金融機関へのヒアリングやアンケート調査など、様々な形でニーズを把握するようにしています。
個人向け国債の大きな特徴は元本割れしないことですが、アンケート結果などをみると、この特徴が個人の方々に思ったほどは知られていないと感じています。最近購入が増えているのは、金利がついてきたことで預金等との比較で魅力を感じていただいているからだと思われます。ただ、金利が上がったタイミングでの注目度は高いものの、利率が上がればそれだけで購入が増えていくかといえば、そうではない場合もあるのが難しいところです。上昇した金利水準にはしばらくすると目が慣れてしまうことや、金利面では他にも魅力的な商品があるため競争度が高いとの声も伺っています。
個人向け国債は安定した資産形成に役立つ商品であると同時に、発行体としても国債保有者層を多様化するとの観点で重要な存在です。国債の個人投資家は短期の投機的な売買をするよりは、長期にわたり安定して保有する傾向があるためです。
――個人向け国債について、今後の課題はどこにありますか。
通常の国債と比べると、個人向けは3年固定、5年固定、10年変動の三種類だけです。もう少し商品のラインアップを拡充しても良いのではないか、また既存の商品についても改善できる部分があるのではないかという声もいただいており、よく検討していく必要があると考えています。
また、これまで個人向け国債は高齢者の方が保有することが多かったのですが、より若い方にも選んでいただけるよう努めていきたいと思っています。近年は好調な株式市場を背景にNISAで投資信託、特に国内外の株に関する投信を買われる方が増えており、投資について関心が高まっています。株式と比べれば日本国債は一見すると利回りで劣っているように見えるかもしれませんが、債券は株式とは異なる性質の商品であり、ポートフォリオ多様化の選択肢になるので、幅広い層に目を向けていただける取り組みを進めていきたいです。
また、確定拠出年金ではデフォルト商品に預金を選ぶ方も一定割合いらっしゃいます。クリアすべき課題は多いですが、将来的にはここに国債という選択肢が増えれば、活用度が高まる余地があるとも考えています。
存在感増す海外投資家
――海外投資家のニーズについて、どう捉えていますか。
統計を見ると、海外の買いが大きく出ている月もあります。超長期の割安感や、為替ヘッジを絡めた取引で魅力が高いと判断し、購入されているようだという話も聞いています。ただし、資金循環統計を見ると、残高ベースでは海外投資家の保有は1割程度とそこまで増えておらず、欧米等と比べてまだプレゼンスは大きくありません。一方、売買シェアで見ると海外投資家の割合は現物で約5割、先物で7割超となっています。短期で売買を繰り返す、アクティブな投資家が増えているのだと捉えています。セカンダリーマーケットや先物、スワップなどのデリバティブでは特に存在感が高まっています。
ヘッジファンドの保有も増えていますが、海外投資家の内訳については統計で細かい実態が捉えきれないのが難しいところです。海外IRなどの場において、金利がついてきたことで日本国債をポートフォリオに組み込む海外のファンドが増えているとの話も伺っており、今後いっそう活発になる可能性はあります。
多様なニーズを持つ投資家が国債取引に参加すると、例えば価格が安くなった際に市場に入っていただけることで、市場が一方向に流れず、需給のバランスが安定化する効果もあると考えられます。そのため、アジア、中東、北米、欧州など幅広く、日本国債に関心を持ってくれている海外の投資家に対して投資商品としての魅力を説明しています。
――海外投資家とのコミュニケーションの中でどのような声が寄せられますか。
日本の政治や経済の状況、経済政策、日銀の対応なども含め、海外投資家は非常に詳しく日本のマーケットを見ていると感じており、厳しい声も含めて、幅広い視点での質問をいただきます。例えば、日銀の金融政策と政府の積極財政が相まってよりインフレが進むのではないかという懸念について質問されることもあります。IRの際には、政府と日銀が連携しつつそれぞれの政策を進めていることや、「責任ある積極財政」ではマーケットの信認をしっかり得ることを心がけていること、債務残高GDP比を着実に引下げていくことなどを説明しています。
市場へのヒアリングを増やす
――2026年度の新たな取り組みとして、市場コミュニケーションの強化を目指し、6月ごろに進行途中の計画を点検するための「年央ヒアリング」を計画されています。
国債発行計画は予算編成に合わせて毎年12月に決定されます。しかし最近、マーケットの動きが大きくなっており、12月に決めた計画をそのまま一年間実行するのでは、市場の変化に的確に対応し切れない状況も考え得る時代になっています。
例えば、去年の6月に超長期債金利が急騰した際に発行計画を変更しましたが、「異例」の扱いとなったことから、当局が発行計画の変更をするのかしないのか、事前に憶測を呼んでしまいました。これまでの計画の見直しのタイミングではなかったために、市場では「当局は計画を変えないだろう」という予想によりバイアスがかかったのではないかとの声も一部で聞かれました。
点検のタイミングを増やし、事前に示しておくことで予見可能性が高まり、マーケット全体としても安定性が高まる効果があるのではないかと期待しています。投資家懇談会やプライマリーディーラー会合でも、参加者の方々からは非常に前向きに、導入を望む声をたくさんいただきましたので、きちんと実施していきたいと考えています。
――金利のある世界での国債管理について、今後の取り組みの展望をお聞かせください。
金利のある世界になった中で、この巨額の国債発行をマネージしていくのは緊張感が高い仕事です。同時に非常にやりがいがあり、新しい取り組みも検討しており、発行当局としてできることがいろいろあると考えています。商品としての国債の魅力が伝わり、いいマーケットになるよう、発行体として努力していきたいと思っています。
