生成AIが我々の意識に急速に浸透して以来、個人、企業、そして社会全体レベルでこの技術との関わり方において、グローバル規模で大きな変化が起きています。
日本においては、国会が先月28日に、AIの開発を促進し、技術に関連するリスクに対処する新しい法律を制定する法案を可決するなど、政府がAIの利用における健全な環境を構築するための規制の重要性が注目されています。
金融庁も3月に金融業界におけるAIの利用に関するディスカッションペーパーを発表しました。さらに同庁は今月初めに官民のステークホルダーによる研究会を立ち上げ、その初会合が6月18日に開催されました。
個々の企業努力から次の段階へ
規制というと、通常、ガードレールの整備や境界線を連想させるものですが、このたび日本においては、新しい産業の成長を促進する政策設定を意味しているように見えます。そして、特に金融サービスにおいて、日本はこの新興分野で世界のリーダーになりえる重要な局面にあるとみています。
例えば、金融庁のディスカッションペーパーは、政策立案の観点から、重要な方向性を示しています。つまり、AIを取り巻く環境が急速に大きく変化しており、そのスピードに対応するためには、現在の状態、いわゆるAI関連の問題を各企業が独自に対処するのではなく、官民の協力と社会全体の横断的なアプローチに移行する必要性を指摘しています。
AIが非常に迅速に進化しているという事実を改めて認識し、政府と民間企業、そして社会全体が、この新しい技術の健全な開発と応用において、果たすべき役割があるとしています。そして、個々での対応よりも、変化と機会に迅速に対応する能力を官民ともに、そして業界や社会レベルで構築する段階にきているというメッセージだと感じています。
実際のところ、AIが5年後にどのような姿になるかは誰にもわかりません。そのため、見通しの立たない将来のシナリオに対して規制を設けることは難しいでしょう。その代わりに、この技術を取り巻く枠組みを構築し、合理的で生産的な結果を導くための能力と知識を作り上げていくことは可能です。
近年、日本では様々な業界においてDX化を進めており、従来型の技術からの移行、そしてデータ駆動型の意思決定を業務に採用し始めています。AIはこれらの動きを更に加速できる可能性がありますが、個々の企業努力を超えたレベルで発展させるには、新しい協力体制、そして官民の連携が必要です。
そういったなか、政府による規制と金融庁のディスカッションペーパーは共に、日本が迅速な開発と展開の恩恵を最大限に享受できるための適切な保護措置を備えおり、日本のビジネス業界、特に日本の金融業界にとって、生成AIの活用により世界の最先端をリードできる絶好の機会を提示していると思います。
しかし、このような高い目標は、政府や関連省庁と民間の横断的連携と決意なしには実現しません。だからこそ、私たちは新しい規制と金融庁のAIフレームワークに関する重要な官民による議論の開始を支持しています。同時に、こういった一連の動きは、金融セクターにおいて生成AIへの投資は歓迎され、そしてサポートされていることを示しています。
生成AIの可能性と課題
金融庁のディスカッションペーパーにでは、潜在的な課題と考えられる対応策が紹介されています。また金融庁が実施した調査によると、9割以上の金融機関がすでに業務効率、対顧客サービス、リスク管理の高度化、市場予測などの分野で従来型AIを活用しているとしています。
一方で、同ペーパーは、生成AIにおいてのユースケースはハルシネーション等のリスクを懸念し躊躇するなか、社内での業務効率化に留まっていると指摘しており、生成AIが持つ可能性が十分に活用されていない可能性を指摘しています。
確かに、AIの大規模な実装の核心には、生成された出力を信頼できるかどうかという基本的な質問があります。これは、金融サービスのような高度に規制された高リスクのセクターでは特に重要です。
実際、技術が急速に進化するにつれて、安全でない結果の可能性も増大しており、そういった課題を十分に認識することは、AIの長期的な活用の成功において重要なポイントとなっています。そしてAIの開発者とユーザーの皆さまは、システムにAIを組み込む際に、慎重なアプローチをとることがこれまで以上に求められています。
こういった点について、同ペーパーでは、対応策として生成AIを駆動する大規模言語モデルの精度を向上させるために設計されたRAGのような技術やプロンプトに工夫を行う、また根拠となる文書に回答を含めることで根拠の裏付けを確認できるように設定する必要性などを挙げています。
金融業界に特化したタクストノミーの必要性
ここでぜひご紹介させていただきたいのですが、ブルームバーグはこの分野において二つの最新の学術論文を直近に発表しています。これらの論文によると、RAGには未だ改善の余地があるという点です。そして既存のガードレールシステムと汎用AIコンテンツリスクの分類法(タクストノミー)が、金融サービスセクターの実世界の生成AIシステムの独自のニーズに対応しきてれておらず、金融業界に特化したタクストノミーの必要性を指摘しています。
いずれにせよ、今回の新しい規制と金融庁のペーパーは、今後、検証が必要となる論点を示しています。こういった議論を経る中で、日本が金融セクターでのAI開発、そして活用において、世界的にリーダーシップをとれる機会であることを明確にしています。そして、潜在的な課題に慎重に対処していくことで、イノベーションへの競争とリスク管理の両方を達成することができるでしょう。
私は、日本の金融業界の同分野での活躍に大きな期待を寄せています。それは、日本の金融業界にとって2つの重要な機会が提示されているからです。
それはまず第一に、日本の経済成長を支える技術とリソースを開発する先導的な役割を果たす機会、そして更に、新しい技術を安全かつ賢く受け入れる方法についての社会全体の議論に積極的に参加する機会でもあります。
そして我々は、官民ステークホルダーによる同分野の議論の行方を今後も注視していきます。