今回は、都道府県別人口順位で47位(約54万人)の鳥取県、46位(約65万人)の島根県をまとめた山陰地方の地域や金融事情について、ごく簡単に解説させていただきます。
既に干支が2周するほど時間が経ってしまいましたが、筆者には、今世紀初めに島根県内の事業所に6か月ほど長期滞在して現地で業務に向き合った経験があります。鳥取県にも、ゼロ年代に業務にかこつけて相当数訪問させていただきました。有難いことに、それから後も現在までお付合いを続けていただける方も少なくなく、そうした交流などを通して得た経験値も踏まえて、少しだけこの地区のことを紹介させていただければ幸いです。
高い訪問のハードル
鳥取・島根両県に跨る山陰地方の地勢は、東西約350㎞(鳥取県約120㎞+島根県約230㎞)に及び、東京駅から名古屋駅の約351㎞とほぼ同距離に達します。飛行機・鉄道・バスなど公共交通機関はひととおり揃っていますが、定住人口に相関して交流人口も頭打ちになるためか、いずれの運航行本数も少なく、乗継ぎなどの利便性は良いとは言えません。
その上、例えば山陰本線のかなりの区間は単線のため、いずれかの車両に事故や故障などがもたらされると、漏れなく全ての車両の運行に遅延がもたらされるなどの実情もみられます。よって、特に特に冬季の降雪期などの訪問には、当初に連想する以上に時間や費用を要することが珍しくありません。
参考までに、2024年11月に東京から島根県内で人口が第3位の自治体である浜田市に訪問する予定の筆者の行程を例示させていただきます。
08:55羽田空港[全日空725便]
⇒09:40萩・石見空港[空港内移動]
⇒10:40[空港リムジンタクシー]
⇒11:40浜田駅
すぐにお気づきのとおり、萩・石見空港着からリムジンタクシー発車まで60分間隔があり、この間の待機を余儀なくされます。
筆者個人の中距離移動時には、時間の正確性や価格を優先し、タクシーよりもバス、バスよりも電車を嗜好しています。しかしながら、石見空港からの公共交通機関の乗合せはとても悪く、例えば山陰本線で移動しようとすれば、現地にこの時間よりもずっと遅くに到着する行程を甘受せざるを得ません。
島根県内には他に出雲縁結び空港・壱岐世界ジオパーク空港がありますが、到着後の移動を巡る状況は、萩・石見空港と大同小異です。鳥取県内にも鳥取砂丘コナン空港・米子鬼太郎空港がありますが、ちょうど東西に分かれており、やはり空港からの移動の際に待機などを余儀なくされ、公共交通機関を利用した移動時に時間や費用を要します。
典型的な地方部
冒頭に挙げた人口の一方で、島根県の面積は都道府県別で19位と栃木県(20位)・群馬県(21位)よりも広く、鳥取県の面積も41位と神奈川県(43位)を上回ります。この結果、人口密度の都道府県別順位も鳥取県が37位、島根県が43位となっています。このため有り体に言えば、現地は典型的な地方部の風景が広がっています。
ネット上には、鳥取県の人口が、東京都八王子市(2024年3月末現在で559,526人)よりも少ないという書込みが散見されます。今回調査したところ、島根県の人口も、東京都江戸川区(2024年10月1日現在で693,685人)を下回っていました。そんな人口の少ない山陰地方ですが、石破総理ほか、以下に示す政治・芸能面の印象は人口や人口密度以上に高頻度な印象を受けますが、皆さんはいかがでしょうか。
分野 |
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県内出身者・ゆかりの人物、事業者[敬称略] |
政治 |
鳥取県 |
石破茂(第102代内閣総理大臣)、片山善博(前知事・元総務大臣) |
島根県 |
青木一彦(青木幹雄元内閣官房長官長男)、亀井亜紀子(亀井久興長女) |
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経済 |
鳥取県 |
寿スピリッツ(LeTAO・あんバタ屋・COCORISなど観光土産最大手)、LIMNO(かつて県内最大手企業であった鳥取三洋電機をルーツとする国内最大のOEMタブレット製造)、日本セラミック(車載を含む赤外線ほかセンサー大手) |
島根県 |
ジュンテンドー(ホームセンターなど)、プロテリアル安来(出雲日立金属の名称変更に伴って名称変更した高級特殊鋼製造)、出雲村田製作所(積層セラミックコンデンサ・電磁妨害除去フィルタ等製造) |
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芸能 文化 |
鳥取県 |
青山剛昌(名探偵コナン作者)、宮川大助(大助・花子)、イモトアヤコ、伊藤幸司(ランジャタイ)、まひる(ガンバレルーヤ)、松浦匡希(Offcial髭男dism)、川中美幸 |
島根県 |
竹内まりや、佐野史郎、田中美佐子、山内健司(かまいたち)、江上敬子(ニッチェ)、青山フォール勝ち・和田まんじゅう(ネルソンズ) |
地域の県民性
東西に長い山陰地方ゆえ、鳥取県では東・中・西部、島根県では東・西部および島嶼部などで地域を分けて語られることが多いようです。例えば鳥取砂丘は鳥取県の東部にだけあるため、米子市などの県西部の在住者からは、「随分前に昔遠足で行っただけ」と言われることが珍しくありません。世界遺産である石見銀山も、島根県のほぼ中央にあるため、松江市など県東部の在住者から「遠いうえに、混んでるようなんで、行くのはしばらく先でいい」と言われたことがあります。
鳥取県には1㎢以上の島はなく、島根県には定住者の居る壱岐4島と約180の小島があります。壱岐諸島には、日本・韓国・北朝鮮が領有権を主張している竹島も含まれます。
鳥取県民の気質は概しておおらかで、二十世紀(梨)の美味しい食べ方を語る人も多いのですが、近年は茶色の新甘泉の作付面積も広がってきているようです。島根県民からは、国政選挙の投票率都道府県別で1位なことを誇らしげに語られたことがあります。
あくまで筆者の皮膚感覚ですが、鳥取県東部の方言は作州地域(津山市を中心とする岡山県北部の圏域)の言葉に近く、島根県西部の方言は備後都市圏(福山市を中心とする広島県南東部の圏域)の言葉に近いように感じます。
日本海の豊富な漁業資源が各漁港(鳥取県18+島根県83)から水揚げされるため、海産物は大変美味しく、高級魚などが東京では考えられない値段で食べられることも珍しくありません。その一方で、海難事故の鎮魂碑や大漁祈願・生還記念の神社などがどの地域にも多数建立されており、先人の苦難の歴史を思い知らされます。
山陰地方のメディア
新聞は鳥取県では日本海新聞、島根県では山陰中央新報が最大の占有率を占めています。日本海新聞は1975年に会社更生法の適用を申請して倒産し、現在の(紳士服大手の)グッドヒルの傘下に入っています。
テレビは山陰地方として一体で語られることが多く、民放では日本海テレビ(日テレ系)、BSS山陰放送(TBS系)、TSKさんいん中央テレビ(フジテレビ系)の視聴が可能です。このほか、確認できた限りでは、ケーブルテレビが鳥取県内に5局、島根県内に9局ある模様です。
山陰の金融機関
山陰地方には、鳥取県にみずほ銀行・三井住友信託銀行、島根県にみずほ銀行・広島銀行・山口銀行が物理的な店舗を構えていますが、預貯金取扱金融機関の中心は、地区内に本店を構えているそれ以外の事業者です。2003年に中国地区の労働金庫が大同団結する形で再編し、本店を広島県に置きましたが、現在も、銀行・信用金庫・信用組合・農業協同組合が相当数の店舗を構えています。
山陰地区内に本店を構える預貯金取扱金融機関[順不同]
銀行 |
鳥取県 |
鳥取 |
島根県 |
山陰合同、島根 |
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信用金庫 |
鳥取県 |
鳥取、米子、倉吉 |
島根県 |
しまね、日本海、島根中央 |
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信用組合 |
鳥取県 |
(なし) |
島根県 |
島根益田 |
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農業協同組合 |
鳥取県 |
鳥取いなば、鳥取中央、鳥取西部 |
島根県 |
しまね |
特徴は、何と言っても数自体の少なさで、地域経済の実情を反映しています。
かつて島根県出雲市に本店を構えていた出雲信用組合は、2006年に島根県大田市の島根中央信用金庫と業態の枠を超えて合併しました。また、島根県津和野市に本店を構えていた津和野信用金庫も、2007年に山口県に本店を構えていた下関・吉南・宇部信用金庫と県境を超えて合併し、山口県下関市に本店を置く西中国信用金庫となりました。
農業協同組合も、2015年に島根県内に11あった組合が大同団結する形で1つに再編されました。
域内で最もシェアが高いのは山陰合同銀行で、島根県の松江銀行と鳥取県の米子銀行が1941年に合併して誕生した経緯からか、現在本店を置く島根県のみならず鳥取県の指定金融機関でもあります。全国で、その都道府県内に本店を置かない金融機関を指定金融機関としているのは、①愛知県が東海銀行の流れを汲む三菱UFJ銀行としている、②兵庫県が神戸銀行の流れを汲む三井住友銀行としている、だけですので、地方銀行を指定しているのは鳥取県だけです。筆者自身は、この辺りにも保守的な山陰地方の思考・行動が反映されていると考えます。
その山陰合同銀行は、2024年3月期の有価証券評価損益でマイナス604億円と地方銀行・第二地方銀行99行で最も大きな含み損を抱えています。好調な株価によって含み損を抱える地方銀行が2023年3月期より20行減った中で、次回の仮決算等が注目されます。
鳥取銀行も、鳥取県内にとどまっているだけでなく、島根県の安来・松江・出雲市に進出しています。それだけでなく、岡山県・広島県にも進出しており、特に地理的に比較的近い岡山県津山市内には3店舗を出店し“津山ブロック”と銘打っています。
地域内唯一の第二地方銀行である島根銀行は、SBIグループと資本業務提携を行い、勘定系システムをIBMからSBIが主導で開発する次世代バンキングシステムへの移行を公表しています。筆頭株主がSBI地銀ホールディングスとなった後にインターネットサービスなどに注力するようになり、高金利定期などが報道されるようになりました。
投資を考えられる際には
両県共に県債の発行には慎重な模様で、鳥取県では2003年以降に県債残高が減少傾向にあり、島根県は2005年以降、連続して公債費以下に発行額を抑制しています。投資家向けのディスクロージャーにも相応に注力している様子がみられ、資料も分かりやすい印象を受けます。県の窓口に照会しても、丁寧でお役所仕事でない対応がみられました。