――FRBの政策変更のタイミングと、利下げのタイミングをどのように予測しますか。11月の米国大統領選の動向がドル相場や金融政策、米国景気に与える影響は。
私たちの見通しでは、ECBや英国に続いて、今年夏ごろにも米国が利下げに踏み切るだろうとみています。大統領選に関しては一定程度のインパクトを見込みつつ、相場への極端な影響は生じないだろうとみています。私たちはトランプ氏、バイデン氏双方の大統領時代を4年間ずつ経験済みであり、どちらの体制下でも米国経済が成長を続けてきたという事実こそが重要です。
注目すべきなのは、個々の企業の業績や財務といったファンダメンタルズです。マクロ環境に過度に引っ張られることなく、景気サイクルのあらゆる局面において安定的なビジネスモデルを実現しているかどうかが私たちの関心事です。
――米国でダイレクト・レンディング市場が拡大している背景について教えてください。伝統的資産やプライベート・エクイティと比べたダイレクト・レンディングの投資妙味はどこにありますか。
ダイレクト・レンディングは現状、1.5兆ドル(約230兆円)の市場規模があります。これはバンクローン(銀行などが主に投資適格未満の企業に対して行う貸付)のマーケットとほぼ同じ水準です。
ダイレクト・レンディングがこれだけの規模へと拡大した背景には、長期的な構造変化があります。1994年時点では、信用力の低い企業向けの融資である「レバレッジド・ローン」のシェアの7割超を銀行が占めていました。しかしリーマン・ショック以降、バーゼル規制を含めたルール強化の流れの中で、銀行のバランスシートを改善するよう求める圧力が高まっていきました。
加えて株式市場においては、銀行に対しローンではなく手数料ビジネスによる収益拡大を求める機運が強まり、銀行の貸し手としての存在感が薄れていったのです。結果的に足元では数字がかつてと比べて逆転し、市場の8割近くをオルタナティブ・レンダーが占めています。
私は90年代からプライベート投資に携わってきましたが、当時は銀行と私たちとの間で厳然たる棲み分けが存在しました。しかし2000年代前半にダイレクト・レンディング市場が生み出されてからは、シニアからジュニアまで幅広い借り手に対するビジネスがオルタナティブ・レンダーへと開放されていったのです。
――日本では政府がオルタナティブ投資の促進策を打ち出していることもあり、多くの年金基金や生保業界がプライベート・アセットへの投資拡大を検討しています。この現状をどう考えますか。
ダイレクト・レンディングが投資家から評価を集めている背景にはさまざまな要因があります。ダイレクト・レンディングの過去のトラックレコードを見ると、バンクローンやハイイールドより損失率が低く抑えられ、デフォルト時の回収率が高い傾向にあります。ハイイールドは担保がない一方、ダイレクト・レンディングは返済順位が高く、かつ担保もついているため、回収の可能性が必然的に高く維持できているのです。
LTV(資産総額に対する負債の割合)も平均40%と非常に低く、エクイティクッションと言われるバッファが60%に上るため、企業価値が毀損しても損失範囲を抑えられる構造になっています。
また、ハイイールドなどいわゆる伝統的な固定金利型の資産クラスは、デュレーションリスク(金利上昇時に保有債券の平均回収期間に応じて価格が下落するリスク)がついてまわります。その点、ダイレクト・レンディングは変動金利なので、こうしたリスク自体が存在しないという強みがあります。
ダイレクト・レンディング市場の拡大の背景には、借り手にとっての使いやすさという要因もあります。たとえば返済の優先順位が高いシニアローンだけで貸すこともできれば、優先順位の低いジュニアローンまで踏み込んでユニトランシェ(シニアローンとジュニアローンの混合)で資金を供給することも可能です。理屈上は銀行も同じ方法で貸出が可能ですが、規制強化を背景に及び腰になっているため、借り手からみても柔軟性の点で銀行の使い勝手が低下しているのです。
私たちは決して銀行が貸したくない企業に資金を提供しようとしているのではなく、反対に安定的な成長を見込めるような企業を選定し、しっかりとリスク管理をしながら借り手となる企業を見極めているのです。
――伝統的な株式や債券を中心にポートフォリオを組み入れている投資家にとって、ダイレクト・レンディングを組み入れることで、どのような効果が期待できますか。
必ずしも全ての投資家が高い流動性を求めているわけではないという事実に加え、ポートフォリオ全体でみた分散効果も、ダイレクト・レンディングが支持を集める要因となっています。市場性が強く、株式相場との相関性が高いハイイールドなどと比べ、ダイレクト・レンディングの価値は安定的と考えられます。
当社の運用戦略における2008年以降のネットリターンは11%強となっており、ポートフォリオ分散における有効な選択肢であると同時に、リスク調整後リターンが非常に高いアセットクラスであると言えるでしょう。
――プライベートデット戦略ではマネジャーごとのパフォーマンス実績やリスク管理能力の差が大きい分野です。優れたマネジャーを選ぶにはどのような点に留意していますか。
クレジット戦略を取るからには、ダウンサイド耐性に関する考え方はパフォーマンスの安定性の観点から非常に重要です。アライアンス・バーンスタインの運用においては、スポンサーとの交渉力を確保するため、基本的にはディールを主導できるポジションを得られる案件に注力し、セクター専門家による精緻な借り手調査を行ったうえで、条件設定を含め常にできるだけ貸し手優位になるよう案件を組成しています。全体の投資案件の80%程度においてディール主導のポジションとなっており、また90%以上の案件でコベナンツの設定を行っています。過去のストレス局面におけるプライベートデットの相対パフォーマンスをみると、弁済順位や担保の有無、コベナンツの設定といった違いが、パフォーマンスの優位性を生みだしていることが見て取れるでしょう。
――日本でもプライベート・アセットの民主化、大衆化が唱えられています。日本市場での戦略は。
米国においてプライベート・アセットは富裕層に広がり、やがて富裕層以下のマスリテール層へと浸透していきました。富裕層チャネルにおいては流動性に対するニーズはそれほど高くないものの、資金管理の観点からオープンエンド型の商品が好まれる傾向にあるようです。
当社にとって米国における投資家の中心は富裕層であるため、ダイレクト・レンディングは全てオープンエンド型で組成しており、ポートフォリオ管理や顧客サービスなどの長い経験を有しています。
リテールチャネルでは、流動性に対するニーズが高い傾向にあり、セミリキッド型のプロダクトが不可欠だと考えています。当社もセミリキッド型のダイレクト・レンディングファンドを立ち上げる予定となっており、日本においても当プロダクトの積極的なマーケティングを検討しています。