finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

リテール現場も知っておきたいサステナ金融の最新動向
排出量開示ルールの強化に事業者側が反発

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.06.04
会員限定
リテール現場も知っておきたいサステナ金融の最新動向<br />排出量開示ルールの強化に事業者側が反発

金融庁で5月28日、サステナブルファイナンス有識者会議の第23回会合が開かれ、温室効果ガス排出量などの情報開示基準について、適用する企業の範囲やタイミングについて意見を交わしました。事業者に在籍する委員からは経過措置を含め柔軟なルールとするよう求める声も上がりました。

「揺り戻し」言及の報告書から1年

有識者会議が昨年(23年)6月に取りまとめた報告書では、ESG投資を含めたサステナブルファイナンス拡大の「揺り戻し」の動きに言及していました。その後に開かれた会合でも、米国でESGをめぐる議論が大統領選に向けて政治色を帯び、EUではタクソノミー(サステナビリティに関する独自の分類法)による関連用語の定義が厳格化する中、日本としての立ち位置の取り方がいっそう難しくなっている現状を指摘する声が上がっていました。

一方、数年前から本格化している国際的な情報開示ルールの整備作業は大詰めに向けた段階を迎えています。官民の温度差が心配される中、政府として国内の制度整備について現実的な解をどのように提示できるかが注目されています。

今回の会合で事務局側は、企業の情報開示に関する制度整備の現況を説明しました。

現在、サステナビリティ情報開示のグローバルスタンダードとなっているのが、昨年(23年)3月にIFRS財団傘下のISSBがまとめたISSB基準です。このISSB基準をベースとして、日本のサステナビリティ基準委員会は今年3月、日本の実務レベルに落とし込んだ開示基準(SSBJ基準)の草案を公表しました。

SSBJ基準の適用対象については、「グローバル投資家との建設的な対話を中心に据えた企業(プライム企業ないしはその一部)」から始め、徐々に拡大していく方向性が示されています。25年中に任意適用が開始される予定で、有価証券報告書での対応義務化のタイミングについては「27年開始」と「28年開始」の2案があります。金融庁はSSBJ基準の最終化を見据え、情報開示の強化を目的とした法令改正も検討しています。

SSBJ基準で示される新たな情報開示ルールを適用する範囲は、どのタイミングでどこまで拡大していくのでしょうか。

金融庁側は、最初に時価総額3兆円以上の企業に適用した後、「1年後に1兆円以上の企業、さらに任意適用や実務の浸透を踏まえつつ順次5000億円以上の企業に適用するといったスケジュールを設定する」、「2030年代にプライム全上場企業を対象とすることを基本線」にする、との考えを示しています。

排出量比較「極めて不適切」の声も

SSBJの基準では、温室効果ガスの排出は3つに分類されます。①工場など自社の施設からの排出(スコープ1)②自社拠点でのエネルギー使用に伴う間接排出(スコープ2)③原材料の調達などでの排出(スコープ3)――です。自社だけでなくサプライ・チェーン全体での排出量の開示を求めています。

ただ事業者側では、このような開示ルール強化に対する反発も表面化しています。特に、取引先を含めた温室効果ガスの排出量であるスコープ3の報告については、取引先から膨大なデータを収集する負担や精度担保のための体制整備にかかるコストが大きく、懸念が上っています。

会合に参加した専門家委員からも、ISSB基準に整合的な国内ルールを整備する方向性自体には賛同の声が相次いだ一方、企業側の負担軽減を求める意見が聞かれました。

ある事業者在籍委員は「事業会社は既に温対法などの対応で詳細なデータを政府に報告している。少なくともスコープ1、2(自社活動の直接的な排出量と、エネルギー購入で間接的に発生する分を含めた排出量)の報告は金融関連の開示と平仄を合わせていただくか、あるいは過年度の温対法報告を使えるような一種の緩和措置をしていただきたい」と要望。

スコープ3については「定義、計算の仕方もさまざまで決まっていない中、スコープ1~3を合算して多いか少ないかを議論するのは極めて不適切」と指摘し、「開示自体が評価されるのは結構だと思うが、多寡を議論するのは時期尚早。そのあたりの事情を配慮した基準にしていただくことが必要」と話しました。

「揺り戻し」言及の報告書から1年

有識者会議が昨年(23年)6月に取りまとめた報告書では、ESG投資を含めたサステナブルファイナンス拡大の「揺り戻し」の動きに言及していました。その後に開かれた会合でも、米国でESGをめぐる議論が大統領選に向けて政治色を帯び、EUではタクソノミー(サステナビリティに関する独自の分類法)による関連用語の定義が厳格化する中、日本としての立ち位置の取り方がいっそう難しくなっている現状を指摘する声が上がっていました。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁
  • #ESG・SDGs

おすすめの記事

⑫自社株評価から考える相続対策の本質

木下 勇人

2026年、注目のアセットクラスは? 債券・株式市場の展望―投資家が注視すべきリスクと機会に迫る

finasee Pro 編集部

「AI以外はほぼリセッションに近い」米国経済はAIバブルか? ―強さと弱点から見通す2026年“変わりゆく”世界経済と投資環境

finasee Pro 編集部

10年国債利回り2%接近でみずほ銀行の売れ筋に単位型ファンド、利回りニーズをとらえた人気ファンドとは?

finasee Pro 編集部

投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】

Ma-Do編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
「AI以外はほぼリセッションに近い」米国経済はAIバブルか? ―強さと弱点から見通す2026年“変わりゆく”世界経済と投資環境
10年国債利回り2%接近でみずほ銀行の売れ筋に単位型ファンド、利回りニーズをとらえた人気ファンドとは?
⑫自社株評価から考える相続対策の本質
【運用会社ランキングVol.5】IFA法人からは「キャピタル」、「フィデリティ」、「アライアンス・バーンスタイン」の米系3社が盤石の高評価/IFA法人編
三菱UFJ銀行の売れ筋は「日経225」に人気集中、「純金」に代わって「オルカン」人気が復調
“霞が関文学”で読み解く金融界⑤ 表題は「FDレポート」なのにFDを突き放す当局
利益相反リスクを内包する日本の「総合証券モデル」「顧客本位」の下で求められる「顧客は誰か」という定義
2026年、注目のアセットクラスは? 債券・株式市場の展望―投資家が注視すべきリスクと機会に迫る
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
10年国債利回り2%接近でみずほ銀行の売れ筋に単位型ファンド、利回りニーズをとらえた人気ファンドとは?
投信ビジネスに携わる金融のプロに聞く!「自分が買いたい」ファンド【アクティブファンド編】
利益相反リスクを内包する日本の「総合証券モデル」「顧客本位」の下で求められる「顧客は誰か」という定義
マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる
【運用会社ランキングVol.5】IFA法人からは「キャピタル」、「フィデリティ」、「アライアンス・バーンスタイン」の米系3社が盤石の高評価/IFA法人編
米国RIAが語るプライベート市場の進化と個人投資家への拡大【米国RIAの真実】──Midland Wealth Managementのエミル・スキ氏とジェイク・ステープルトン氏に聞く
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
三菱UFJ銀行の売れ筋は「日経225」に人気集中、「純金」に代わって「オルカン」人気が復調
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
三井住友銀行の売れ筋でランクアップしたファンドは? ランクインした「ライフ・ジャーニー」は期待以上のリターン
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら