finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

従業員の口コミデータを株式クオンツ戦略に活用
運用者の詳細な評価がアルファ創出の源泉に

オルタナティブデータ活用の最前線

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2023.12.27
会員限定
従業員の口コミデータを株式クオンツ戦略に活用<br />運用者の詳細な評価がアルファ創出の源泉に

運用業界において、にわかに注目される存在となったオルタナティブデータ。運用会社では数あるオルタナティブデータをどのように活用しているのか、一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会に所属する各社にインタビューした。第4回は、ファンドマネジャーとして運用戦略に落とし込む三菱UFJ信託銀行の資産運用部、国内株式クオンツ運用グループでファンドマネージャーの神田 裕樹 氏に話を聞いた。*この記事はオルイン12月号の記事を抜粋したものです

――オルタナティブデータの活用に関して、貴社の取り組み状況をお聞かせください。

当社では株式、債券、オルタナティブなど、さまざまなアセットクラスの運用でオルタナティブデータを活用しています。特に株式投資の文脈では、財務諸表だけでは企業価値を適切に推計しにくくなってきたため、2006年ごろから特許や研究開発に注目し、分析を始めました。企業が持つ収益力を測る上で、ブランドや人的資本などの無形資産を正しく評価する重要性は日増しに高まっていると感じています。

三菱UFJ信託銀行 資産運用部 国内株式クオンツ運用グループ  ファンドマネージャー 神田 裕樹 氏

――では、運用者としてどんなデータに注目し、どのように投資戦略に生かしているのでしょうか。

私が運用しているファンドでは、複数のオルタナティブデータを参考情報として採用していますが、その中の1つが従業員による企業の口コミデータです。普段から学術論文を中心に運用に役立ちそうな情報を収集しているのですが、2018年に従業員の口コミデータと企業業績・株価との関係性を調査した研究を目にしたことがきっかけでした。

近年、地政学リスクの高まりやテクノロジーの急速な進展など企業経営を取り巻く環境が大きく変化しており、それに対応するには高い変革力が必要になります。そうした企業文化があれば時代の移り変わりにも対応できるでしょうし、それがひいては市場でも評価されて株価のパフォーマンスにもつながるという仮説を持っていました。このような視点から、従業員の口コミデータを手がかりにして、変革力のある銘柄を抽出しようとしたわけです。

前段として、まずは変革力があると思われる企業を選別します。その上で、当該企業の口コミに含まれる「トピック」と「センチメント」から、変革力のある企業文化をスコア化して定量分析します。

トピックとは口コミの中に、「挑戦する風土」や「風通し」のほか、例えば「フラットな組織」といった変革力を示すと考えられるキーワードが入っているかどうかで、センチメントは、その内容がポジティブなのかネガティブなのかを示すものです。仮に「挑戦する風土」が「ある」ならば+1点、「ない」なら-1点といった形で点を付けます。これを1つひとつの口コミに付与して、企業ごとの変革力を定量的に測っていきます。

対象企業の口コミの数は数十万件にも上るため、分析には機械の手を借りるわけですが、そのベースとなるのは、運用者が直接目で見て実際にスコア化したものです。内容は文脈によっても意味合いが異なることがありますから、機械的に判断するだけでは本来の口コミが意図する内容とずれる可能性があります。私とアナリストで手分けをして数万件程度の口コミを読み込んで評価し、それをモデルに反映させて一気に数十万件を精査しました。

データをひたすらに読み込んでいくのは地道な作業ですが、運用者による評価を適切にモデルに組み込むことができるという点ではメリットがありますし、それが戦略の独自性にもつながると考えています。また、お客様への説明責任を果たす上でも、自分自身の目で見て納得したものかどうかは重要なポイントです。

結果としてポートフォリオはグロース寄りのスタイルで、構成銘柄はシクリカルセクターの企業が多いのですが、商社などの銘柄も目立ちます。商社はバリュー寄りの銘柄とされますから、一般的な分類とは異なる企業が選ばれていることは注目に値するでしょう。

バックテストの結果では、高い変革力を持つ企業群はそうでない企業群と比べて株価パフォーマンスが良く、これはROEなど他の指標では説明がつきません(図)。こうした結果もあり、実際の運用戦略に採用するに至りました。

 

 

新たなデータも注目され 財務諸表との連携も

――口コミデータは、ほかにどんな切り口から運用戦略に使うことができますか。あるいは、口コミ以外に注目しているオルタナティブデータはありますか。

口コミデータは、ESGの観点から女性の働きやすさを評価することなどにも活用できます。働きやすい環境の整備は人材の定着につながりますし、人的資本が蓄積されることは業績にもポジティブであると考えられます。実際、この仮説を検証したところ、株価に対して有意に働くとの結果が出ました。

口コミ以外で注目しているデータとしては、企業の二酸化炭素排出量と人流データが挙げられます。前者はESG投資の世界的な広がりもあって頻繁に取り上げられるテーマになりましたが、今のところリターンとの関係については見解が分かれています。

そもそも二酸化炭素排出量に関するデータはベンダーによっても内容や質が異なっていますが、このテーマは今後も運用業界のメインストリームであり続けるでしょうから、データの精度向上や運用戦略への展開が期待されます。

人流データに関しては、スマートフォンのGPSなどから得られる位置情報が該当します。これを基にしてオフィスやホテル、商業施設の稼働率や業績予想に応用できるという点で、特にJ-REIT投資において有効だと考えています。

あるいは、オルタナティブデータと従来の財務諸表を組み合わせた新たな指標も誕生しており、例えば、企業の売上高あたりの二酸化炭素排出量で求められる「炭素強度」がそれに当たります。こうした指標はオルタナティブデータであると同時に、一般的な財務データとも密接に関連していますから、2つのデータの境界はなくなりつつあると言えるのではないでしょうか。

 

――オルタナティブデータの活用に関して、貴社の取り組み状況をお聞かせください。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #株式
  • #債券
  • #オルタナティブ

おすすめの記事

【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント

文月つむぎ

SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン

finasee Pro 編集部

J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?

finasee Pro 編集部

岸田路線から高市路線への結節点に「地域金融力」――FAカンファレンスで金融庁市場課長が示唆

川辺 和将

「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」

森脇 ゆき

著者情報

finasee Pro 編集部
ふぃなしーぷろへんしゅうぶ
「Finasee」の姉妹メディア「Finasee PRO」は、銀行や証券会社といった金融機関でリテールビジネスに携わるプロフェッショナルに向けたオンライン・コミュニティメディアです。金融行政をめぐる最新動向をはじめ、金融機関のプロフェッショナルにとって役立つ多様なコンテンツを日々配信。投資家の皆さんにも有益な記事を選りすぐり、「Finasee」にも配信中です。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
J. フロント リテイリングに聞く企業型確定拠出年金制度運営の秘訣―継続投資教育の参加率が驚異の80%超えの理由とは?
SBI証券で再び米国大型テック株への関心高まる、新設「メガ10インデックス」もランクイン
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【文月つむぎ】運用立国議連の新「緊急提言」を読み解く!NISA、税制の見直しで対応が求められる3つのポイント
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
特別対談/みずほ証券 浜本吉郎代表取締役社長×楽天証券 楠雄治代表取締役社長
提携から3年、価値観の相違に衝突する場面も
顧客が心地よく使えるシームレスなサービスを
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
足利銀行の売れ筋にみる「コア・サテライト」の投資戦略、新たな「コア」が期待されるファンドも登場
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【連載】藤原延介のアセマネインサイト㉖
~米国投資信託最新事情
ミューチュアルファンド初の30兆ドル突破も、米国株ファンドから過去最大の資金流出
第16回 資産運用にまつわるさまざまな常識を疑え!【総集編】
「資産運用において疑うべき常識」を振り返る
【連載】こたえてください森脇さん
⑬若手の職員への教育が不足。効果的な方法は?
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
【運用会社ランキングVol.3/販売会社一般編②】販社からの評価を高める「野村」の底力と「フィデリティ」の運用力、2年連続で総合トップの「アモーヴァ」は安泰か
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
【新連載】プロダクトガバナンス実践ガイド~製販情報連携の背景と事例
①プロダクトガバナンスが注目される背景と製販情報連携の重要性
【連載】こたえてください森脇さん
⑪預かり資産業務に対するマネジメント層の理解が低い
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【みさき透】高市内閣で「運用立国」から「投資立国」へのシフトが加速へ
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
【文月つむぎ】証券口座乗っ取り被害ゼロへ 金融庁の新監督指針を読み解く
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら