全国一の求人難
報道で目にすることも多い有効求人倍率については、事業者の求職告知として最も一般的な公共職業安定所(ハローワーク)の保有データによって算出されます。
データは、(a)受理地別、(b)就業地別、の2種が公開されています。(a)は分子の求人数を「どこのハローワークで受理したのか」を基にした数値、(b)は実際に就業する都道府県別に集計した求人数の数値となっています。
福井県は2025年平均の都道府県別有効求人倍率で、(a)が1.69倍と、第1位の東京都(1.73倍)に次ぐ第2位となり、(b)では第1位の1.84倍となりました。
この数値の大きさは、「求職者<求人数」を意味するため、少数の求職者を巡って事業者側が争う図式が窺えます。分子が示す有効求人数の多さと、分母が示す求職者数の少なさの比率が示すのは、就職希望者にとって仕事が見つけやすく事業者が採用しにくい“売り手市場”に他ならず、リスク管理上での“人手不足倒産”が連想されます。
まずは分母について詳しく見てみましょう。2025年の国勢調査(確定値)では、福井県の人口は、鳥取・島根・高知・徳島県に次ぐ43位となっています。数値は鳥取県の53.5万人よりも20万人弱多い72.9万人となっており、全国最少というわけではありません。また、実際の就業者数に影響する高齢化率でも、上位1~4位は順に秋田・高知・青森・山形県で、5位は岩手・徳島県が同率となっています。もちろん福井県でも高齢化は進行していますが、他県に比べて著しく進行速度が早いというわけではないようです。
よって、有効求人倍率を引き上げている主要因は、分子の方にあります。経済センサス-活動調査などから窺える結果は、人口1,000人に対する事業所数で、この値が都道府県別で第1位となっています。人口に比べて多い事業所のうち、人手不足に悩むところが多かった中で、ハローワークに求人票を提出した事業者が多かった実情が窺えます。潜在的に、金融機関が貢献できる余地は多いと考えられます。
シェア95%の眼鏡フレーム
事業所全体の数の多さは、小規模企業者数が押し上げています。眼鏡関係業種では、鯖江市を中心に福井市・大野市・越前市・越前町などで分業体制が敷かれた結果、福井県の国内産眼鏡フレーム(枠)の占有率は95%付近にあります。世界的に見ても、イタリア・中国と並ぶ世界三大眼鏡産地の一つに挙げられています。
こうした事業者の大多数が小規模事業者であることが、事業所全体の多さの一因となっていることは想像に難くありません。主に中国や韓国などで製造された輸入フレームを福井県内に持ち込み、「レンズ入れ」や「最終検品(仕上げ・調整)」工程だけを行う対応なども幅広く実施されています。こうしたフローが産地での構造的特徴となっていますが、これらの工程でも小規模事業者が数多く関わっています。
折しも、パソコン・スマートフォン・タブレットの普及に伴うデジタルデバイスの多用化に伴い、世界規模で近視人口が増大しています。爆発的な増加ぶりに「パンデミック」と表現する向きもあるようです。総務省の調査によれば、1日当たりの全年代の総平均で、2020年にはテレビのリアルタイム視聴が193.2分、インターネット利用が149.3分であったところ、2023年に両者が逆転しています。2025年ではテレビが156.1分に減少した一方、インターネットは183.9分とその差も30分弱まで広がっています。
日本を筆頭に進展する高齢化も、老眼鏡(累進レンズ)の需要をもたらしています。これらの結果、運転免許保有者(全体)に占める「眼鏡等使用」条件付き保有者が上昇し続けています。若年層の車離れが指摘されて久しいことから、若年層だけを抽出して公的データを参照してみても、やはり上昇し続けています。
有り体に言えば眼鏡需要は拡大し続けているため、福井県内での人手不足への対応が世界的な需給に影響も与影響も相応な規模に達することでしょう。
人材や製造業も豊富
そんな福井県では、明治維新前から繊維産業が盛んで、「染める」「機能性を加える」等の製造・精製過程などで薬剤・界面活性剤が開発・改良されたほか、樹脂加工技術が発展していきました。さらに、ポツダム宣言受諾直前の1945年5月1日に当時の武生市(現在の越前市)に信越化学工業武生工場が発足したことに伴い、化学産業の本格化が後押しされました。武生工場には、当時の軍需省が珪素鉄(けいそてつ)の増産を図る中で大同化学工業の吸収合併を命じ、増産を図る目的がありました。
戦後には、GHQの要請により石炭窒素肥料の生産拡大が図られました。さらにその後は塩化ビニール樹脂、合成繊維、界面活性剤などの化学・高分子分野など他分野に技術が派生し、そうした中で周辺に化学系の生産設備や事業者が集積されていった経緯があります。現在も、福井県工業技術センターや(公財)若狭湾エネルギー研究センターなどの研究施設支援機関が、新素材や最先端技術の研究開発を支援しています。
知名度の点で最も高いのは、準大手ゼネコン(主要10社)の一角を占める熊谷組です。実際の本社・本部機能は東京都新宿区に集約していますが、登記上の本社所在地は今なお福井市に置かれています。
メディアでは、テレビの民放が2局、全国ネットの系列局であるラジオもAM・FM共に1局ずつにとどまっています。京都府や石川県という大消費地に挟まれた立地としては意外な印象を受けます。
金融機関本店は福井市に集約
そうした福井県内に本店を構える金融機関は、4業態で9先まで集約されています。前回の金融風土記で取り上げた山形県が26先でしたので、同じ日本海側ながら、およそ三分の一の数です。
近年で最も大きな動向は、何と言っても今年5月2日の福井銀行と福邦銀行の合併と、それに伴う県内一行体制への移行です。福邦銀行は、1943年の若越無尽株式会社を始祖とし、その後相互銀行・普通銀行に転換しながら金融機能を提供し、最終的に80年強の歴史に幕を下ろした形です。若越無尽の設立に先立った1899年の最盛期には、県内に本店を置く普通銀行・貯蓄銀行・農工銀行が合計で28行に達していました。
信用金庫では、1971年に大野信用金庫と勝山信用金庫が合併し、越前信用金庫が誕生しました。さらに、1991年には、三国信用金庫と丸岡信用金庫が合併し、福井中央信用金庫が誕生しました。
2001年には、福井信用金庫を存続金融機関として福井・福井中央・鯖江の3信用金庫の対等合併が実現しました。合併後の新理事長には鯖江信用金庫の理事長であった蓑輪進一氏が就任しています。
さらに、2016年には乱脈融資や信用失墜によって自力再建が困難となった武生信用金庫を福井信用金庫が救済合併し、現在は4信用金庫体制となっています。かつて効率経営を謳っていた武生信用金庫ですが、従業員数5名の酒造会社に15億円もの融資を二代に亘る理事長が実施し続け、それを告発した職員との間で争いが続いていました。
2つある信用組合は、福泉が取引相手を原則として福井県やその出先機関・警察官・教員などに限定する職域信用組合であり、福井県医師は石などに限定する業域信用組合です。かつては取引相手に制限のない地域信用組合である福井県第一があったものの、バブル経済期の過剰融資やその後の景気後退により経営が破綻し、1996年に福井銀行に営業譲渡がなされています。
福井県県民史によれば、1948年時点では県内に198もの農業協同組合があったといいます。その後、経営効率化等を目的とした広域合併が繰り返され、平成の大合併の波が落ち着いた2003年頃には12農業協同組合となり、それが15年以上にわたって続きました。その後、信用部門の収益悪化などを背景に、さらなる効率経営を図らざるを得なくなり、2017年に県下の一方化方針が打ち出されました。
合併は2020年4月が予定されていましたが、前年の2019年にJA越前たけふが離脱を決定したため、当初の予定時期に、当該JAを除いた形で合併が実施されました。その後は独立路線を歩んできたJAたけふですが、温暖化や豪雨豪雪、農業就業者の高齢化など農家を取り巻く環境がさらに厳しくなることに伴い、昨年11月のJAグループ福井県大会において、JA福井県との合併に向けた検討の再開が決議されました。
特徴的なのは本店の位置です。JAが福井県の1組合に統合されてしまえば、福井市以外に本店を置く金融機関は3つの信用金庫だけとなります。金融機能提供時に合わせた本業支援など助言業務が重視される昨今、このような偏在についても何らかの調整が必要な時期に来ているかも知れません。
