――金融経済教育の一環として、どのような啓発活動を展開する方針ですか。
われわれ運用会社の社会的役割とは、中長期的な資産運用の裾野を拡げることです。個別商品の開発やプロモーションに加えて、そもそも投資とは何か、お金を育てるとはどういうことか、そのお金が企業の成長や社会課題の解決につながっていくのかを粘り強く伝える啓発活動も重要です。マネーのサステナブルな循環への理解が深まれば、目先の利益を狙った短期的な売買も抑えられるはずです。
当社は2023年10月に「未来をはぐくむ研究所」を設立し、個人の資産形成や金融ウェルビーイングに関する情報発信や調査、分析など、運用会社だからこそできる金融経済教育の啓発・普及活動を進めていきます。
お金の教育に「早すぎる」ということはありません。子供向け職業体験テーマパーク「キッザニア」を運営するKCJ GROUPと提携し、同社が開発したアプリ「キッザニア オンラインカレッジ」にファンドマネジャーの仕事を学べるコンテンツの提供を始めました。また、小学館が運営する子育て情報メディア「HugKum」(はぐくむ)に、「親子で学ぶ『マネーの本質』」というコラムも掲載しています。
大学での出張講座も行っており、ときどき私も教壇に立って学生に教えます。驚いたのは、経済学部の学生でも資産運用になじみのない人が多いことです。米国では資産運用業がどのような展開をたどり、日本の資産運用業が今後どうなっていく見通しなのかという全体像を話した上で、運用会社の役割には、他人の資産を預かるという受託者の部分と預かったお金を投資するという投資家の部分という2つの側面があり、「投資」には投資先企業の成長を促すという働きがあることも伝えるようにしています。すると学生たちから「投資とは、いかにお金を儲けるのかということだと思っていた。企業の成長を促して社会の豊かさをもたらしていると聞き、その意義の大きさを初めて知った」という感想が多く寄せられます。今のZ世代はサステナビリティや社会への貢献に対する感度が高いことを改めて認識しました。今後もさまざまなチャネルを通じ、日本の将来を担う若い世代にも投資と社会のつながりを伝え続けていきたいです。
――職域やリタイアメントサービスへの関心も高まっています。
日本の場合、公的年金や企業年金の制度が複雑に入り組んでいるため、個人のインフローとアウトフローを一元的に把握して管理することが困難な状況にあります。DB・DC・公的年金、自身が投資しているNISA口座の資産状況などを一覧化できるようになると、老後のお金のあり方を主体的に決めやすくなります。そのような環境を整えていくことが、運用会社やDB総幹事、DC運営管理機関、カストディ銀行等を擁する総合金融グループに対する役割期待とも言えるでしょう。当社は現在、みずほ銀行や第一生命などと議論を重ねながら、将来的な老後資産のワンストップでの見える化に向けた研究を始めています。
また、年金シニアプラン総合研究機構やティー・ロウ・プライス・ジャパンと連携し、「資産形成を社会実装するための長期研究チーム」を立ち上げました。職域における資産形成・金融経済教育などに関する調査を実施し、その結果を今年度下期に公表する予定です。ティー・ロウ・プライスは米国におけるリタイアメント運用のパイオニアですので、その知見を生かしながら有意義な提言ができればと考えています。