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テレビやCMのデータが運用業界にも導入され
専門家の協働によって新たな活用法が生まれる

オルタナティブデータ活用の最前線

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2023.12.25
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テレビやCMのデータが運用業界にも導入され<br />専門家の協働によって新たな活用法が生まれる

運用業界において、にわかに注目される存在となったオルタナティブデータ。データベンダーはどのようにしてデータを収集し、運用会社へ提供しているのだろうか、一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会に所属する各社にインタビューした。第3回は、テレビのメタデータを扱うエム・データ代表取締役社長の薄井司氏と、その分析を用いて運用会社へのインサイトを提供するhandsの代表取締役、塩谷航平氏に話を聞いた。*この記事はオルイン12月号の記事を抜粋したものです

――まずは薄井さんから、エム・データの会社概要について教えてください。

薄井 当社はテレビ番組やCMの放送内容のすべてをテキスト化した「TVメタデータ」の収集・提供をメインの事業としています。

創業は2006年ですが、その前身となる会社でテレビの映像を録画し、テレビに映った商品や企業、人物、話題などの映像にタグを付けて広告会社やスポンサー企業に提供する業務を行っていました。このタグ付けされたテキストデータが膨大に蓄積されていく中で、これを別のビジネスにも生かせるだろうという発想から、当社が設立されました。

エム・データ 代表取締役社長 薄井 司 氏

当初、TVメタデータは主にテレビ局の視聴動向分析に使用されていましたが、そこからCMの効果を分析したいスポンサー企業や広告代理店、調査会社などへと活用例が拡がっていき、運用業界に対しても当社の情報を提供するようになりました。

――次に塩谷さんから、handsの会社概要をお聞かせください。

塩谷 当社の創業は2021年で、オルタナティブデータの分析を通じて運用会社に投資戦略やインサイトを提供している会社です。機関投資家向けには「Peragaru」というWebサービスを運営しています。

では、当社とエム・データの役割はどう違うのか。運用会社がオルタナティブデータを使用する際には、主に2種類の企業が関わっています。1つはエム・データのような自社でデータを収集・保有しているデータホルダー、2つ目は当社のように、投資戦略に活用できるようデータを加工して提供するデータプロバイダーです。

オルタナティブデータが活用され始めたころは、データホルダーと運用会社が直接取引することが一般的でした。しかし最近ではデータの種類が多様化したことにより、単に情報を購入するだけでは投資戦略への応用が難しくなっています。そこで当社のようなデータプロバイダーが介在し、運用会社に対してデータの分析からインサイトの抽出といったサポートを提供しているわけです。

hands 代表取締役 塩谷 航平 氏

人海戦術でデータ化し ひと手間加えて運用に活用

――エム・データは、具体的にどのようにしてTVメタデータを収集しているのでしょうか。

薄井 100人以上の専門オペレーターを動員して、テレビの放送内容を365日24時間体制でチェックしています。データの中身は番組内容の要約からテロップ情報、登場した企業、出演者やトピック、放映時間などで、幅広い情報をテキスト化してデータベースにしていることが当社のデータの特徴です。最近では、番組内で紹介された商品、飲食店や観光スポットなどの情報も収集しています。

またテレビ番組だけでなくCMに関しても、企業や商品名はもちろん、どの放送局のどの番組で、何秒間、どんなタレントやBGM、キャッチコピー、ナレーションが使われていたのかといったことをデータ化しています。

こうした情報を表計算ソフトなどを使って分析するためには、列と行で分けて構造化しなければなりませんし、企業や商品の名称を統一して記述することも必要になります。ブランド名や企業名などはテレビで放送される際にバラツキがありますから、それをそのまま記録するのでは後々の分析が困難になります。そのため、集計時に細かくルールを設定し、テレビに登場する固有名詞はすべて統一しています。

こうした作業とともに、番組内で紹介された商品にJANコード(商品識別番号)などの情報を付与することで、活用の幅が格段に広がります。例えば、ある商品が紹介された番組の放映後にECサイトのトップページにその商品を表示したり、番組名や紹介したタレント名で検索するとその商品が上位に表示されるといった、他社との連携が素早く簡単にできるようになるわけです。

あるいは、緯度と経度の座標をTVメタデータに付与すれば、テレビで紹介された飲食店や観光スポットをマッピングできるようにもなります。それを地図アプリと共有すれば、テレビで紹介された店舗の検索や予約、ナビゲーションまでを集約することも可能になります。

――エム・データのデータは、運用の世界ではどのように活用されているのですか。

薄井 JANコードなどと同様に、TVメタデータに証券コードなどを付与すれば運用業界のオルタナティブデータとして活用ができます。その一例が当社の「TV-CM四季報」で、東証上場銘柄のCM出稿状況をサマリーしレポートにしています。銘柄ごとのCM出稿の増減率や前年比、前期比などのデータを分析できるほか、セクターごとのCM出稿実績をランキングすれば業界の趨勢を明らかにすることもできます(図1)。

 

また、テレビ番組やCMへの露出が増えることによって売り上げが伸びるのであれば、収益や株価にも寄与するのではないかという、素朴な疑問も生まれました。それを実際に検証したところ、テレビへの露出がシグナルの1つとして機能するという結果が得られました(図2)。このシグナルの勝率は約8割ですから、TVメタデータを運用の世界にも応用できるでしょう。

 

もっとも、当社が保有しているのはあくまで放送内容を記録したTVメタデータですから、実際にテレビ番組やCMによって視聴者や投資家がどのように行動したのかを分析することまではできません。そこで、視聴者数やWeb検索量、Webサイトのアクセス数、SNSの投稿量、決済データなどさまざまなデータを統合して、認知から購買に至るプロセスを紐解けないかと考えています。

また投資家向けには、業績や財務情報と連携して投資判断に対するより深いインサイトを提供できないかということも検討中で、例えばCMの放送量を時系列の変化で集計して、ブランド力やマーケティング活動の動向を示す指数の開発を構想しています。

とはいえ、これらのデータすべてを自社で保有しているわけではありませんし、運用業界でのさらなる活用を考えた場合には専門的な知識が必要です。データを扱う関連企業と幅広く連携する中で、オルタナティブデータを金融分野に落とし込むことができるhandsに協力を仰ぎ、2022年からコラボレーションが実現しました。

複数のデータを組み合わせれば新たな可能性が大きく広がる

――handsはファンドマネジャーなどに対し、どのようにして投資戦略のインサイトを提供しているのでしょうか。

塩谷 当社は現在6社のデータホルダーと連携しており、保有しているデータの種類は約3000種類、データの総数は約8兆にも及びます。その中でも、エム・データのTVメタデータをどう活用しているかについてご説明します。

まず、TVメタデータは随時集計されていますが、それを四半期ごとに変換し、放映されたCMの回数や秒数を、合計や平均などの形で「Peragaru」上で表示しています(図3)。

 

また、企業ごとに決算期が異なる場合がありますから、それに応じて自動的に集計ができる機能も提供しています。

当社は国内の運用会社だけではなくグローバルに情報提供を行っているのですが、特に海外の投資家は日本株をさほどカバーできていません。そうした運用者でも投資戦略にデータを生かしやすいように加工しているのが、データプロバイダーとしての当社の一義的な役割と言えるでしょう。こうした基本的な機能に加えて、TVメタデータに基づいた投資戦略へのインサイトも提供しています。

例えば、足元では米国金利上昇の影響で日本のグロース株が下落していますが、金利上昇が落ち着けばグロース銘柄が再評価される局面になると期待する運用会社もあります。そうした運用会社に向けて、まずはテレビCMの放送実績データでカバーされているグロース銘柄の中から、SaaS(Software as a Service)企業に絞って割安なものを探し出します。

企業の決算書はPDFで公表されているケースが一般的ですから、画像解析ソフトを用いてKPIとなる重要指標や財務情報を分析しやすい形に抽出します。同時に、テレビCMが直近の四半期にどれだけ放送されたかというデータから広告宣伝費を割り出します。これらの情報を基に営業利益を算出し、株価上昇余地があると考えられる銘柄を発掘しています。

加えて、当社では企業の売上高を誤差7%程度で予測するモデルを開発しているのですが、これを踏まえてもう少し先の業績をレポートすることも可能で、ここでもやはりエム・データの力を借りています。

あまり規模の大きくない会社では広告宣伝費の割合が高くなりがちで、CM出稿が増えればそれだけ利益を圧迫してしまいます。そこでTVメタデータを用いれば、これまでの広告出稿実績に基づいて今後のマーケティング活動をある程度予測でき、それを当社の売上予想と掛け合わせることで、将来の決算をより早く推計できます。そうなれば、決算を待ってからアクションに移す他の投資家と比べて、アルファ獲得の余地が大きいと考えられます。

――handsはエム・データ以外のデータホルダーとも連携しているとのことですが、注目しているデータがあれば教えてください。

塩谷 当社では、連携中のデータホルダーとは異なる角度から独自でデータを使用しています。例えば、売り上げを推計する際には子会社の情報も取得しなければなりませんから、親会社と子会社をグルーピングした法人番号を保有しています。この情報を活用すれば、従業員の採用数や人件費も推測することができます。

また、先述のように当社はエム・データを含めて6社と連携していますが、これらのデータは組み合わせることで新たな発見につながる可能性を秘めています。

例えば、2023年9月に東芝データが提供する電子レシートサービス「スマートレシート®」とデータ連携を開始したのですが、この購買データとTVメタデータとの組み合わせについては特に注目しています。2つを組み合わせれば企業や商品のブランド力、競争力といった定性的で長期的な情報を計測できるのではないかという仮説を持っており、現在その検証作業を行っているところです。

これらのデータは単独で使用して短期的な業績を測るという、これまでのような使用方法ももちろん考えられます。しかし、その一方で組み合わせによる効果が実証されれば、ヘッジファンドのような短期目線の投資戦略だけでなく、長期的な視点に立つロングオンリーのファンドマネジャーにも、当社のインサイトを提供できるのではないかと考えています。

――まずは薄井さんから、エム・データの会社概要について教えてください。

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