finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

運用業界で活用拡がるオルタナティブデータ
その現在地を確かめさらなる可能性を探る

オルタナティブデータ活用の最前線

finasee Pro 編集部
finasee Pro 編集部
2023.12.19
会員限定
運用業界で活用拡がるオルタナティブデータ<br />その現在地を確かめさらなる可能性を探る

運用業界において、にわかに注目される存在となったオルタナティブデータ。一般的なマクロ統計情報や企業の財務情報とはどんな違いがあり、どのような活用可能性があるのか、一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会に所属する各社にインタビューした。第1回は、日銀の企画局、調査統計局出身で、多様なオルタナティブデータを扱い機関投資家や公官庁などにも分析サービスを提供するナウキャストの代表取締役CEO 辻中仁士氏に話を聞いた。*この記事はオルイン12月号の記事を抜粋したものです

――初めに、オルタナティブデータとは何かについて解説していただけますか。

オルタナティブデータは、これまでの運用において伝統的に使われてきた経済指標や企業の財務情報とは異なったデータを指す言葉です。具体的にはクレジットカードの購入情報などの消費者購買データ、携帯電話のGPS機能から得られる人流データ、人工衛星の画像などが挙げられるでしょう(図1)。

出所:渡辺努、辻中 仁士編著『入門オルタナティブデータ 経済の今を読み解く』(日本評論社)より編集部作成

 

オルタナティブデータとよく似た言葉の「ビッグデータ」とも大きく重なる部分はありますが、データ量が少なくても新たに利用されるものであればオルタナティブデータと呼ばれる点が、両者の違いと言えるでしょう。

もう1つオルタナティブデータの特徴を付け加えるならば、本来の目的とは異なる形で、二次的に収集されたデータであるという点も挙げられます。伝統的なデータは適切な投資判断のために開示される企業の財務情報のように、特定の利用目的のために収集・開示されます。一方のオルタナティブデータは、何らかのサービスを提供する過程で偶然集まったデータだと言えます。

ナウキャスト 代表取締役CEO 辻中 仁士 氏

――オルタナティブデータが運用業界で注目されるようになった背景はなんでしょうか。

やはり、さまざまなデータが比較的容易に利用できるようになったことが最大の要因だと考えられます。かつて、日本国内で四半期決算の報告が義務化されたタイミングでクオンツ運用が加速したことがありました。図1にあるようなオルタナティブデータは2010年代の後半になって提供されたものがほとんどで、近年のオルタナティブデータ活用の普及拡大もそれに通ずるものがあります。

また、データ分析を行う上で欠かせないのは、コンピューティングパワーの向上や技術的なインフラの整備です。AWS(Amazon WebServices)に代表されるクラウドコンピューティングも、日本に普及したのはやはり2010年代の中頃以降です。データが外部にも公開されるようになったことに加えてデータ処理能力の向上が、運用業界でのオルタナティブデータ活用を後押ししています。

利用者と提供者だけではない オルタナティブデータの業界地図

――オルタナティブデータの利活用には、どんな企業がどのようにかかわっているのでしょうか。

データ市場が成熟している米国の状況が、より参考になるでしょう。データの利用者とデータの提供者の2つの軸に分けて考えると、利用者としてまずは運用会社やヘッジファンドなどが挙げられます。米国では大手運用会社からオルタナティブデータと運用成果に関する研究結果が発表されていたり、著名ヘッジファンドがオルタナティブデータを分析するアナリストを採用していたりと、運用業界としても活用に積極的であることがうかがえます。このほか事業会社や中央銀行でも、経営戦略や金融政策の判断材料として使われています。

一方のデータ提供者は、役割に応じて分業が進んでいます。手が加えられていない生データを保有するデータホルダー、それを加工して投資のインサイトを提供するデータプロバイダー、さらにデータホルダーと利用者をつないで販売仲介などを行うデータエージェントと呼ばれる会社も存在します。

また、ブルームバーグやリフィニティブといった大手金融情報プロバイダーも、複数のオルタナティブデータを取り扱うプラットフォームを創出し、利用者とのマッチングを手助けする役割を担っています。

日本も米国ほど複雑化していないものの、データホルダーやデータプロバイダーなどの役割を担う企業が登場してきています(図2)。

出所:一般社団法人オルタナティブデータ推進協議会

 

――日本のオルタナティブデータを取り巻く環境について教えてください。

公的部門にデータ分析者が豊富に存在することは日本の強みと言えるでしょう。省庁や日本銀行などにはデータ分析の専門家が揃っており、実際に日銀の調査統計局には約200人のエコノミストが在籍しています。

また2013年には東大の渡辺努教授の研究グループが、POSデータを使って消費者物価指数を毎日計算する「日経・東大日次物価指数」を公表しました。これは日銀内でも早くから注目され、2014年には公式文書にも取り上げられるようになったほどです。

一方で、日本ではデータの流通に慎重さが求められていますし、特にプライバシーに関わるデータを利活用することに対しては、多くの国民が漠然とした不安を抱いているのではないでしょうか。しかし、公的部門が政策判断のためにオルタナティブデータを使用する限り、不安は抑えやすいかもしれません。そこで作られた事例や分析ノウハウが蓄積されれば、民間企業にも応用の範囲が広がっていくでしょう。

国内の運用会社でもオルタナティブデータの活用事例が見られるようになりましたが、米国対比で差が開いている感は否めません。これには、資産規模や運用手法の選択肢が日米で大きく異なることが少なからず影響しているでしょう。資産が巨額な運用会社であれば、多彩な戦略を運用するためにオルタナティブデータを扱える人材を抱えることも可能だと思われます。

もっとも、米国はマネジャーの数も豊富です。たとえ小規模ヘッジファンドだったとしてもマネジャーに「アニマルスピリット(野心的な意欲)」が備わっていれば、他社との差別化のためにこうしたデータに注目するはずです。

翻って日本は、運用会社の数もそれほど多くはありませんし、新興マネジャーの台頭も限定的でした。しかし近年は日本においても、オルタナティブデータを使うなどして運用の独自性を打ち出す野心的な若手アナリストやマネジャーに出会うこともあります。彼らが新興ファンドマネジャーとしての地位を確立できる環境が整えば、運用戦略や手法の多様化も進むでしょう。その意味では、政府が掲げる資産運用立国の方針には期待を寄せています。

オルタナティブデータの活用は運用にどんな変化をもたらすか

――オルタナティブデータを扱う上での注意点や課題はなんでしょうか。

オルタナティブデータを分析する際には、そのデータが投資対象企業について知りたい情報を適切にカバーしているかを精査する必要があります。しかしこれには、データ分析を得意とするクオンツ運用が用いてきた分析技術とは異なるアプローチが要求されます。

クオンツ運用が主に扱うのは財務情報や経済統計などの伝統的なデータです。これらは基本的にそのデータが示す情報は信頼できるものと見なされています。しかし、先述のようにオルタナティブデータは二次的に集められたデータであり、標本設計されているわけではありません。あらかじめ設定された目的に沿って収集されているわけではないので、オルタナティブデータの中には常に何らかのバイアスが潜んでいます。

例えばクレジットカードデータであれば、カード会員である消費者の性別や年齢、居住地域などの匿名データを取得できますが、それは日本の人口統計の分布と比較すると偏りがあるはずです。そのため分析する際には、カード会員の属性情報と正解データである統計情報を比較しながら検証しなければなりません。

また、データに欠損値がないかもチェックする必要があります。例えばWebから収集したデータには、特定期間のデータが欠落していることがしばしばあります。これは、Webサイトのレイアウト変更などで、当該ページにアクセスできない期間が発生することがあるためです。このように、データの「癖」を把握した上で、それに合わせた処理方法を考えることが求められます。

――オルタナティブデータを活用することで、資産運用はどう変わるとお考えですか。

まず、ESG投資はオルタナティブデータとの親和性が高いため、企業評価においてさまざまな軸を提供できるでしょう。例えばオープンワークが提供しているような従業員の口コミデータを使えば、経営の質や企業文化、給与水準など現場の生の声
を反映した企業評価が可能になると考えられます。

ほかにも企業の取引関係を網羅するデータから、最終製品のメーカーがどのような取引先とつながっていて、どのように製造されているかを把握することができますから、人権問題への企業の対応をモニタリングする際にも生かせます。オルタナティブデータを使うことで、より広範な視点から企業の実態を把握できるでしょう。

それに加えて私が特に期待しているのは、オルタナティブデータによって運用商品の多様化が進んでいくことです。伝統的な資産クラスに対してオルタナティブ資産が存在します。当初これらをポートフォリオに組み入れる動きはあまり進みませんでしたが、今では、機関投資家の運用を語る上で欠かせないものになっているのではないでしょうか。

オルタナティブデータは資産クラスではないものの、運用手法の側面から投資家に多様性を提供できます。米国では位置情報のデータを活用して特許まで取得したファンドが存在するなど、ユニークな運用商品が登場しています。運用会社がオルタナティブデータを活用することで個性ある運用戦略を生み出せば投資家の選択肢が拡がり、それがひいては日本の資産運用業界の発展にも貢献するでしょう。

――初めに、オルタナティブデータとは何かについて解説していただけますか。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #株式
  • #債券
  • #オルタナティブ

おすすめの記事

第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?

篠原 滋

ゆうちょ銀行・郵便局の売れ筋で「225」が「S&P500」を上回るパフォーマンスで人気化、バランス型も「成長コース」が好成績

finasee Pro 編集部

ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(3)アクティブファンドのモニタリング② α(アルファ)値とβ(ベータ)値

中村 裕己

静銀ティーエム証券の売れ筋で再評価される「テック株」、米国株とは一線を画す「欧州株」も浮上

finasee Pro 編集部

【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?

森脇 ゆき

著者情報

finasee Pro 編集部
ふぃなしーぷろへんしゅうぶ
「Finasee」の姉妹メディア「Finasee PRO」は、銀行や証券会社といった金融機関でリテールビジネスに携わるプロフェッショナルに向けたオンライン・コミュニティメディアです。金融行政をめぐる最新動向をはじめ、金融機関のプロフェッショナルにとって役立つ多様なコンテンツを日々配信。投資家の皆さんにも有益な記事を選りすぐり、「Finasee」にも配信中です。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?
福岡銀行で国内株「配当フォーカスオープン」が売れ筋トップ、「テック株」「純金」「インド株」がランクアップ
「動画を上げるぞ」「マスコミに流すぞ」に毅然と対応できる?――日証協の新カスハラ対策マニュアルの中身とは
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
ゆうちょ銀行・郵便局の売れ筋で「225」が「S&P500」を上回るパフォーマンスで人気化、バランス型も「成長コース」が好成績
【特別対談】本音で語る“顧客本位”の理想と現実 現場と行政の対話が照らす「これからの投信窓販」
② 投信窓販において収益性と顧客本位をどう両立させるか
【動画】永田町のキーパーソンに聴く② 自民・神田潤一氏 金融改革、次はiDeCoが山場
第13回 運用資産に関わる常識を疑え!(その2)
高金利通貨での運用は有利?
【動画】連続講義「事業承継・生前対策の最新動向」
⑧役員退職慰労金の論点整理(後編)
みずほ銀行で一段と盛り上がる「米国株ファンド」、安定感抜群の「ピクテ・プレミアム・アセット・アロケーション」
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?
【文月つむぎ】片山さつき新大臣に贈る言葉
投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】
ゆうちょ銀行・郵便局の売れ筋で「225」が「S&P500」を上回るパフォーマンスで人気化、バランス型も「成長コース」が好成績
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(3)アクティブファンドのモニタリング② α(アルファ)値とβ(ベータ)値
第15回 運用資産に関わる常識を疑え!(その4)
株式はリスクが大きいので投資初心者には不向き?
【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング
滋賀銀行で人気化の「ゴールド」と「インド株」、上昇勢いに乗る「順張り」と雌伏に賭ける「逆張り」の結果は?
静銀ティーエム証券の売れ筋で再評価される「テック株」、米国株とは一線を画す「欧州株」も浮上
投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング 
銀行、証券会社以外の選択肢とは?【IFA編】
【ネット証券&対面証券72社編】投資信託の「運用損益」プラス顧客率ランキング
【地域金融力の現在地-前編】横浜銀行、ひろぎんの目指す地域金融力の形とは?
【連載】こたえてください森脇さん
⑧ゴールベースアプローチを実践するための具体的な会話例は?
片山さつき新大臣は「資産運用立国」基本線を継承へ!一方、岸田元首相が運用業界につきつけた「注文」とは…
「動画を上げるぞ」「マスコミに流すぞ」に毅然と対応できる?――日証協の新カスハラ対策マニュアルの中身とは
【文月つむぎ】日証協の「個人投資家意識調査」を熟読すべし 新規投資家層の早期失望に備えよ
資産運用ビジネスの本気度が問われる時代へ、変わる監督行政と業界
7月に発足した金融庁「資産運用課」の課題は  永山玲奈課長に聞く
【連載】こたえてください森脇さん
⑩役席者には収益目標、現場には残高目標。両方を達成するには?
【連載】こたえてください森脇さん
⑨顧客本位の実践より、自身の営業成績を優先している方が評価されていると感じる
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら