インバウンドが本格的に再稼働し始めた。
日本政府観光局の「訪日外客統計」によると、世界的なパンデミックが起こる直前、 2019年の訪日外客数は年間累計で3188万人を記録し、過去最高となったが、パンデミックで外国人観光客の受け入れ制限を行った2020年は411万人、2021年は24万人にまで激減した。
そして、外国人観光客の受け入れ制限が緩和された2022年は383万人に回復。 2023年1、2月に約150万人、3月に約170万人を記録し、この3カ月間だけですでに2022年の数字を上回っている。しかしコロナ前2019年と比較するといまだ6割程度の回復となっており、今後中国の本格的回復が期待できること等から成長余地は大きい(下図参照)。
三井住友トラスト・アセットマネジメントが設定・運用している「インバウンド関連日本株ファンド(愛称:ビジット・ジャパン)」 は、 2015年9月7日から運用が開始され、現時点で8年弱の運用期間を経ている。ファンド名を見ると、「コロナ明けの短期的なリターンを狙ったテーマ型ファンド」 というイメージで捉えられがちだが、実はそうではないわけだ。
三井住友トラスト・アセットマネジメントの投信営業部長を務める河合俊輔氏は、 「設定した当時、首相だった故・安倍晋三氏が、日本の長期的な成長戦略にインバウンドは必要不可欠、というスタンスを強く打ち出していたため、関連企業に投資することで長期的な成長の期待できる投資信託が組成できると考えました」 と設定当時を振り返る。
3つのテーマに基づいてインバウンドの経済効果を測る
少子・超高齢社会で、日本の人口が減少していくのは不可避だ。人口が減れば、数の経済に依存した経済力は衰えざるを得ない。
それを避けるため、多くの企業が生産性の向上に取り組んでいるが、それに加えて注目されるのが交流人口の増加だ。交流人口とは旅行者や短期滞在者の人口のことで、インバウンドの強化は交流人口の増加を促す。政府は将来的に訪日外客数を年間6000万人にしたいと考えており、今後もその実現に必要な施策が講じられる。インバウンドは一時的なテーマではなく、日本経済の構造改革を伴う長期的な国策なのだ。「国策に売りなし」 と言われるだけに、インバウンドに対する期待度は大きい。
ところで、インバウンドによる経済効果というと、一般的には来日した外国人観光客が、日本国内で消費することによって得られるものというイメージが強い。宿泊や食事、買い物などがそれで、これらは狭義のインバウンドと言える。
これに対して同ファンドが掲げているインバウンドの解釈は、「3つのテーマで成り立っている」と話すのは、ファンドマネジャーを務める坂本久佳氏。
「第一は文字通りのインバウンド消費で、外国人観光客の消費によって直接、経済メリットを享受する企業、例えば百貨店や宿泊施設、テーマパークなどが投資対象です。第二はインフラ整備で、商業施設や不動産、鉄道などインバウンドをインフラ面から支える企業がこれに含まれます。そして第三がアウトバウンド需要です。アウトバウンドいうと、インバウンドの対語と考えてしまいがちですが、メイド・イン・ジャパン製品や、日本文化を輸出することで日本に興味を持ってもらえれば、インバウンドの促進につながります」。
上記3テーマの足元の投資配分比率は、インバウンド消費が5割、インフラ整備が2割、そしてアウトバウンド需要が3割。ただし、コロナ禍がそうだったように、インバウンド消費が逆風になっている時などには、この投資配分比率を柔軟に見直すという。
2023年3月末時点における組入上位銘柄を見ると、食料品の寿スピリッツ、小売業のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス、三越伊勢丹ホールディングスといったインバウンド消費を抑えて、組入比率のトップはアウトバウンド需要で投資されたソニーグループだ。
中長期の投資スタンスで関連企業の成長性を評価
足元の運用成績は、ようやく長いトンネルを抜けた感がある。世界的にパンデミックが終息し、日本においても新型コロナウイルスは2類から5類にダウングレードされ、季節性インフルエンザと同等になった。街を歩けば、外国人観光客が大挙して日本に訪れていることが実感できる。
中でも百貨店、宿泊施設、テーマパークは、インバウンドの増大に直接、ポジティブな影響を受けるセクターなだけに、 2023年3月期決算が大きく改善した。昨年の秋口からインバウンドが復調だったことからすれば、わずか数カ月間のインバウンド回復効果が、業績を大きく押し上げたことになる。それだけに、2024年3月期決算に対する期待感も高まる。
銘柄選別に際して、想定している投資期間の長さ、いわゆる「投資ホライズン」 は基本的に中長期だという。中長期的な成長ストーリーが描ける企業の株式に投資し、中長期的な信託財産の成長を目指す。
それはファンドに組み入れられている株式の回転率にも表れており、2022年8月期中の株式売買金額を、同期中の平均組入株式時価総額で割った売買高比率は0.93。これは、ファンドに組み入れられている全銘柄のうち半分に満たない銘柄数を入れ替えただけにすぎず、アクティブ運用のファンドとしてはかなり低い。この点からも、同ファンドが一過性の「はやりもの」的なテーマに投資するものでないことが分かる。
同ファンドの純資産総額は、 3月末時点で610億円。過去の資金流出入状況を見ると、 2022年8月以降、資金流入が大幅に増えている。これはこの時期に前後して販売会社が継続的に増えていることが大きく、やはりインバウンドという身近なテーマに対する評判が高いという。
「近年はグローバル株式型ファンドの人気が高まる一方、日本株ファンドの人気がやや低迷しています。しかし、このファンドなら将来の成長性を分かりやすく伝えられるため、お客さまに自信を持ってお勧めできるという声を、多くの販売会社の皆さまからいただいています」(河合氏)。
世界的に利上げが相次ぐ中、日本は当面、緩和が継続される見通しだ。米国の著名投資家、ウォーレン・バフェット氏も日本株への継続投資を表明しており、「インバウンド」 という長期での成長期待が高いテーマに投資できる、同ファンドの今後に期待したい。