――幻の雨宮体制に比べて政策に違いはありますか。
政策変更の到達地点という意味では変わりはないように思います。ただ、植田氏のほうがその都度の経済状況に基づいて政策を判断しようとする意識が強い。日銀の事務方は「行き過ぎた政策を戻していく」という発想が先行しがちですが、植田氏は事務方の問題意識に乗りつつも、経済に逆風が吹いていれば無理をしてまで正常化を進めることはしないでしょう。米国からITバブル崩壊の波が押し寄せるさなかに日銀がゼロ金利政策を解除した2000年のような事態にはならないはずです。「雨宮総裁」よりも植田総裁のほうが、緩和見直しのペースがやや緩やかになる可能性があると私はみています。
――2%の物価目標の先行きは。
植田氏が「2%」という水準にこだわるとは思えません。この数値に理論的な根拠はありませんから。植田氏は「(日銀総裁に就いたら)学者なので論理的に判断したい」と述べている以上、2%目標は柔軟に見直していくでしょう。そもそも金融正常化を進める上で、2%目標をそのまま維持することはできません。目標の位置づけを中長期的なものへと変えて柔軟化するのがまっとうです。
岸田政権との調整は、さほど滞りなく進むでしょう。早ければ4月にも政府・日銀の政策協定(アコード)の見直しと2%物価目標の修正がありえます。ただ安倍派の横やりが入ると厄介で、2%目標の見直しが遅れるおそれもあります。それでも年内には見直される方向になるとみています。
――緩和見直しのスケジュールはどのようになりそうですか。
イールドカーブ・コントロール(YCC)は日銀にとって当面の一番の課題です。YCCを維持するために国債を大量に買い入れる必要が出てきているので、そこは比較的早く手を打つでしょう。長期金利の許容変動幅の再拡大や廃止は十分考えられます。
とはいえ、年内にできるのは許容変動幅の見直しと2%物価目標の修正までだと見ています。景気の減速、円高の進行、FRBの利下げ観測が出てくると、日銀としても動きづらくなります。本格的な見直しは24年半ば以降になっていくでしょう。マイナス金利を解除した後にYCCの廃止があり、そのあとには国債の残高を減らす量的引き締めがあって、そしてETFのオフバランス化に踏み切るという流れが想定されます。正常化の着手までに数年かかり、完了にも長期を要します。植田氏としては5年間の総裁任期のうちに、正常化の道筋をしっかりつけたいと考えているのではないでしょうか。