突然の申し出に三枝子は…

「え?」

三枝子は立ち止まり、思わず聞き返した。

一瞬、自分に声をかけられたとは思わなかったのだ。

ロビーのベンチの端に座っていた20代くらいの女性が立ち上がる。女性は肩にかけていたバッグを持ち直しながら、店員とのやり取りを聞いていたと話した。

「私、1人なので。よかったら一緒にどうですか?」

「でも、悪いわ」

「席に座る人数が1人増えるだけですよ」

女性はそう言って笑った。三枝子はすぐにはうなずけなかった。ありがたい申し出ではあるが、赤の他人の食事に割り込むようで気が引けた。

「ありがとう。お気持ちだけで大丈夫よ。私は帰るから」

「でも、長いこと待ってたんですよね? 1人で食べるより誰かと食べたほうが美味しいですから。人助けだと思って一緒に食べてくれませんか?」

女性は三枝子が迷っているのを見ると、店員のほうへ向き直った。

「あの、すみません、人数1人増えてもいいですか?」

「えっ、あ、はい。少々お待ちください。確認を……」

「テーブル席だから1人増えても平気ですよね?」

女性がたたみかけると、店員は戸惑う様子を見せながらも、店内の席を確認してうなずいた。

「そうですね……はい、大丈夫です。ご一緒にどうぞ」

三枝子は女性と店員を交互に見た。ここまで言ってもらって断るほうが、かえって申し訳ないような気もしてくる。女性は急かさず、三枝子の返事を待っていた。

「じゃあ……お言葉に甘えてもいいかしら」

「もちろんです。行きましょう」

店員に案内され、2人は窓際のテーブル席へ向かった。

しかし三枝子はどうにも落ち着かない。見ず知らずの若い女性と食事をするなど、そうそうある体験ではない。三枝子が恐縮しながら名乗ると、女性も簡単な自己紹介をしてくれた。彼女の名前は史織というらしい。

「本当にありがとうね。せっかく1人でゆっくり食べるところだったのに」

「そんなに気にしないでください。言ったじゃないですか、誰かと食べたほうがって」

「でも、知らないおばあさんと相席なんて……」

史織はメニューを開きながら、少しだけ笑った。

「相席したら、もう知らない人じゃないですよ。こうしてお互い名前も顔も知ってますし」

思いがけない返しに、三枝子も小さく笑ってしまった。

「それもそうね」

史織は何事もなかったかのようにメニューへ目を落とした。

「さて、何にしようかな。お腹ぺこぺこなんです」

三枝子もつられるようにメニューを開いた。先ほどまで胸を占めていた情けなさは、いつの間にか薄れていた。