仕送りを巡って義母と対立

「じゃあ、私たちは何の楽しみもなしに暮らせっていうの?」

義母はすぐに言い返した。

「楽しみを全部やめてほしいと言っているわけではありません。ただ、娯楽に使うお金を私たちが負担するのはおかしいって話です」

「そのとおりだ。気持ち的には、今までの分も返してほしいくらいだ」

義母は唇を結んだあと、不満そうに楓へ目を向けた。

「楓さんがそんなこと言うから、佑輔まで急に冷たくなって」

「楓のせいにするな」

佑輔がすぐに遮った。

「俺も同じ考えだ。息子の家庭から金を巻き上げてギャンブルに使うなんてどうかしてる」

「違うのよ、佑輔。これは――」

「毎月の仕送りはもうやめる。同居もしないし、この家のローンも俺たちは払わない。退職金なり年金なりで、何とかしてくれ」

「そんな勝手な話があるか」

それまで黙って聞いていた義父が声を荒らげた。

「結婚したときに約束しただろう」

「だから、俺たちは一緒に住むとも、ローンを払うとも約束してないって。そっちが都合よく解釈しただけだろ」

佑輔の口調には、迷いがなかった。楓は彼の横顔を見て、張りつめていた気持ちが少しずつほどけていくのを感じた。

「お前は一人息子だぞ。親を見捨てるつもりか?」

「見捨てるわけじゃない」

佑輔は一度、言葉を切った。

「本当に生活できなくなったとか、病気で高額な医療費が必要になったとか、そういうときは相談してくれればいい。その代わり、何にいくら必要なのかはちゃんと教えてもらうけどな」

義父は不満そうに黙り込み、義母も腕を組んだまま視線をそらした。

「自分たちが遊ぶ金を俺たちに出させようとするのは、もうやめてくれ」

それ以上話しても同じことの繰り返しになりそうだったので、楓と佑輔は席を立ち、まだ不満を口にする義母たちを残して義実家を後にした。

自分たちの家庭を守る選択

その夜、陽向と紬を寝かせたあと、楓はリビングで家計簿アプリを開いた。毎月の固定支出に入れていた「義実家 30,000円」を削除し、その分を子どもたちのための貯蓄へ回すよう設定を変える。

「これで少し気が楽になったな」

隣に座った佑輔が言った。

「うん。でも、ちょっとだけ後ろめたい気もする」

「大丈夫。俺たちにも守る生活があるんだから、気にしなくていいよ。それに何も絶縁しようってわけじゃない」

「そうだね」

楓は小さくうなずき、スマートフォンをテーブルに置いた。待ち受けには、弾けるような笑顔を浮かべた陽向と紬が写っている。楓と佑輔は、画面の灯りが消えるまで娘たちの姿をじっと眺めていた。

※複数の事例から着想を得たフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。