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変化の時期における「長期投資家」の立ち位置は?ベイリー・ギフォード共同経営者に聞く

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2025.12.23
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変化の時期における「長期投資家」の立ち位置は?ベイリー・ギフォード共同経営者に聞く

税制上の後押しを背景に、長期投資の行動様式は国内の投資家の間で定着しつつある。一方で2025年の国際情勢を振り返ると、持続的な成長ストーリーへの確信を揺さぶりかねないイベントが相次いだのも事実だ。世界の“長期投資家”たちは、目下の地政学的な変化やAI企業による株式市場の席捲に、どのように向き合っているのか。英資産運用会社ベイリー・ギフォードのパートナー、スチュアート・ダンバー氏に、変化の中で成長力を維持・強化する企業を探索する同社の運用哲学について、そして見通し難しい2026年以降の市場環境に備え、投資家に今求められるスタンスについて考えを聞いた。

ディスラプション下の投資機会とは

――日中関係の緊張感の高まりなど地政学的な変化もあり、2026年以降の見通しの難易度がいっそう高まっている印象です。

「まずあえて強調しておきたいのは、『5年先の展望が描けない株式には投資しない方がよい』ということです。たしかに地政学的な動向は人々の注目を集めやすく、ここ最近であればトランプ大統領の発言などが売買の材料になりやすい傾向が見受けられます。とはいえ結局のところ今後12カ月で市場がどうなるか一体、誰が正確に見通せるでしょうか。短期的な未来を予測するのは誰にとっても非常に難しいという事実を認めることこそを出発点とすべきでしょう」

「企業の株価は、今後5年間の事業ファンダメンタルズを反映する――これが私たちの基本的な考え方です。国際情勢の動向に比べれば、特定の企業が生産効率を5%向上したといった出来事はともすると見過ごされがちですが、経済成長や富は最も優れた企業の行動によってこそ生み出されるのです」

 

――短期的なノイズに惑わされることなく、長期的な成長を見抜く御社の方法論を具体的に教えてください。

「世界中で今、過去に例を見ないスピード感でのディスラプション(破壊的な変化)が生じています。これは、成長株の運用者にとって投資機会がそこかしこに転がっていることを意味します」

「私たちが日ごろ心がけているのは、他の人々が見ないところに目を向けるということです。成長力のある企業を見極める上では、金融メディアやブローカーだけではない独自のネットワークを活用します。特に、大学の研究者など専門家とのネットワークを重視し、場合によっては科学的リサーチに資金を提供することもあります。彼らとの対話から、ゲノムシーケンシング、バッテリー、そしてAIといった分野を含め、世界で起きている『変革の方向性』について聞き出します。そして変革を利用できる立ち位置の良い企業を探し出し、当社のチームが実際に企業を訪問して、マネジメント層が抱く野心と戦略が私たちの捉えようとしている成長機会と合致するかを見定めるのです」

 

「私どもが投資を始めた頃にはまだそれほど有名ではなかった企業が、今では超大型の銘柄になっているといった例は珍しくありません。たとえばNVIDIAについては2016年、すなわちその社名を誰もが知るようになるよりかなり前から投資を継続しています」

ツールとしてのAI

――AIブームと言われる状況下で、数えきれないほど多くの企業がAI活用を謳っています。「AIをただ使っているだけの企業」と「成長に活用できる企業」を見分けるポイントはどこにありますか。

「問題は、その企業が顧客に何を提供していて、その顧客がそれに対しお金を払う意欲があるかという点です。AIはあくまでツールであり、そのツールを製品やサービスに組み入れることで、お客様により良い価値を提供し、結果としてきちんと値上げもできている企業は限られています」

 

「具体的な銘柄に言及する前に言っておくと、私たちは他のアセットマネジャーが気にしているいわゆる『打率』のようなものを、過度に重要視してはいません。それよりも大切なのは『どれだけ正しいか』、つまり、当たった時のリターンがどれだけ大きいかです。早期の成長企業を見極めようとする活動では間違うことも多いのですが、少数の大勝者が、多くの敗者の損失を補って余りあるリターンを得ていると考えています」

「その上で言えば、例えばトラクターメーカーとして知られるDeere & CompanyはAIを使うことで、農家が殺虫剤の使用量を大幅に削減できる製品を提供しています。あるいは、ShopifyはAIをプラットフォームに組み入れ、加盟店がよりターゲティングの効いたマーケティング活動ができるよう、課金のインセンティブを整えています。DuolingoはAIを活用し、課金ユーザーに対してパーソナライズされたレッスンを生成しています。これらの企業はAIというツールの強みを有効に活用し、顧客体験を向上させつつコストを削減し、収益力を高めていると考えています」

「また、地政学的な揺れなどの課題に適応していく術を持っているかどうかも焦点となります。例えば中国のバッテリーメーカー寧徳時代新能源科技(CATL)は、欧州や米国など中国国外に生産拠点を設け、米中間の論争の影響によるリスクへの適応を進めています。私たちが見ているのは、日々ヘッドラインを駆け抜けていくノイズそのものではなく、そうしたノイズを乗り越える企業本来の実力です」

 

――最後に、日本の投資家へメッセージをお願いします。

「成長企業は株価が激しく上下に動くこともありますが、そうした局面でこそ投資家の方々には辛抱強さが求められることになります。株価が下がったからといってファンダメンタルズの良い企業を売ってしまっては、長期的に見て重要な成長機会を逃す懸念があるからです。変化の時期こそ、市場のタイミングを計ろうとするのではなく、ファンダメンタルズに着目して優良な企業を見定め、そこに地道に投資し続ける意義を再認識する絶好の機会と言えるのではないでしょうか」

 

《インタビュー後記》

長期投資家というと退屈なイメージを抱く人もいるかもしれないが、ファンドマネジャーごと、戦略ごとに異なるカラーがある。老舗運用会社のベイリー・ギフォードは、長期投資の静的なコンテクストを基盤に敷きつつ、NVIDIAなどオーソドックスなAI関連銘柄をしっかり組み込むなど、幅広い投資家のニーズを捕捉するバランス感覚を持っている印象だ。

このところ金融庁は金融機関の提案現場を、長期分散投資の教育を軸とした金融リテラシー向上の前線として位置付けようとしている。とはいえ短期的な市場の動揺やボラティリティの増大に直面した際、金融機関には、顧客の行動を支え、安心させるための具体的なソリューションを提示することが求められる。ダンバー氏が指摘するように、特に成長株投資は辛抱強さが求められる世界だ。刹那的なヘッドラインや地政学的なノイズを完全に無視するのではなく、一歩引いた場所からその影響を冷静に評価し、本質的な企業価値を見失わない運用哲学や具体的な課題解決策を求める声は、前提が揺るがされる時代にこそ一層高まるのかもしれない。

 
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著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
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