夫との記憶を胸に外食へ

「歩いて行けるわよね」

帽子をかぶり、財布を小さなバッグに入れて家を出た。玄関を開けた途端、むっとした熱気が押し寄せてくる。真夏の日差しは容赦なく、数分歩いただけで額に汗がにじんだ。そういえば以前、昼食を作るのが面倒になった日に、夫と2人で回転寿司を食べに行ったことがある。ふと浮かんだ懐かしい記憶に浸りながら、三枝子は黙々と歩き続けた。ようやくビタミンカラーの看板が見えたときには、背中まで汗ばんでいた。

「やっと着いたわ」

早く冷房の効いた店内へ入りたい。そう思いながら、三枝子はファミレスの自動扉をくぐった。

「いらっしゃいませー」

店内へ入ると、冷たい空気が汗ばんだ肌に心地よかった。

三枝子はほっと息をついたが、入口付近には何組もの客が待っている。昼時らしく、奥の席からは食器の音や話し声が絶えず聞こえてきた。ファミレスを利用したことはあったが、入口の様子は記憶と少し違っている。受付台の上には大きなモニターが置かれ、画面にはいくつもの項目が並んでいた。

「ここで待てばいいのかしら……」

三枝子は画面をのぞき込んだ。人数を選ぶらしい表示は見えるものの、その先をどう進めればいいのか分からない。右手は固定されているため、左手だけで触るのにも妙なやりにくさがあった。そこへ、料理を運び終えた店員が近くを通った。

「あの、すみません。1人なんだけどね……これ」

「いらっしゃいませ。受付はこちらの画面からお願いします」

店員は足を止め、モニターに触れて画面を示した。丁寧な口調で説明したあと、店の奥から別の店員に呼ばれ、すぐに顔を上げる。

「受付が済んだら、こちらのソファでお待ちください」

そう言い残すと、店員は急ぎ足で奥へ戻っていった。三枝子はもう一度画面を見た。やはりよく分からない。だが店員には伝えたし、一度操作してくれたのだから、これでいいのだろう。