家族が集まらなくなった家
昼前からつけっぱなしになっているテレビでは、出演者たちが賑やかに笑っている。三枝子はソファに腰掛けたまま画面を眺めていたが、何の話をしているのかほとんど頭に入ってこなかった。
数年前に夫を亡くして以来、こうしてただただ時間が過ぎていく日が増えた。朝起きて食事をし、最低限の家事をして、テレビを眺めているうちに夕方になる。夜になれば眠り、翌朝にはまた同じ1日が始まる。
「ああ……もうこんな時間なのね」
壁の時計が正午を回っているのを見て、三枝子はようやく立ち上がった。
2人の子どもたちとは、仲たがいをしているわけではない。ただ、どちらも離れた場所で家庭を持ち、それぞれの暮らしを送っている。以前は孫たちを連れて帰省してくれたものだが、その孫たちもとうに成人して自分の生活を営んでいる。三枝子自身、みんな忙しいんだからと子どもたちに自分から連絡をするようなこともない。家族がこの家へ集まる機会は、いつの間にかなくなっていた。
「何かあったかしら」
三枝子が冷蔵庫を開けると、買い置きしていたものがちらほら残っている。いつもならそれを見て、適当に1~2品作るところだったが、今、三枝子の右手には固定具が巻かれている。
実は昨日、玄関先で足を滑らせて転び、利き手を骨折してしまったのだ。医師からはしばらく右手に負担をかけないよう言われている。
「うどんくらいなら……」
と思ったが、野菜を切ろうにも包丁は握れない。鍋を出しても、片手だけで水を入れたり運んだりするのは危なそうだった。昨夜は病院の帰りに買った半額の弁当で済ませたが、毎日同じでは味気ない。
「片手が使えないだけなのに、作れないものね」
思わずこぼした言葉が、静かな台所に妙に大きく響いた。
夫がいたころなら、何か買ってきてもらうこともできただろう。今は、自分が動かなければ何も始まらない。そんな当たり前の現実が重くのしかかってくる。
「仕方ない。外で食べようかしら」
無理をして手を悪化させるよりはましだ。三枝子は冷蔵庫を閉めた。近所にファミリーレストランがあったはずだ。
