finasee Pro(フィナシープロ)
新規登録
ログイン
新着 人気 特集・連載 リテール&ウェルス 有価証券運用 金融機関経営 ビジネス動画 サーベイレポート

金融庁新長官に井藤企画市場局長が就任へ 昇格の王道ルートではなくなった監督局の「ジレンマ」

川辺 和将
川辺 和将
金融ジャーナリスト
2024.07.04
会員限定
金融庁新長官に井藤企画市場局長が就任へ 昇格の王道ルートではなくなった監督局の「ジレンマ」

政府は、金融庁企画市場局長の井藤英樹氏が5日付で長官に就く人事を発表しました。井藤氏の後任の企画市場局長には現・総合政策局長の油布志行氏が、新・総合政策局長には日銀出身で同局審議官の屋敷利紀氏が就きます。栗田照久現長官が1年間という比較的短期間で退き、監督局トップの次期長官候補が「落選」することになった電撃的人事をめぐっては、関係者から「行政処分を通じた市場の規律維持という役割を担っている監督当局が抱えるジレンマがあらわになった」と指摘する声が上がります。

井藤英樹氏は1988年に東大法学部卒業、同年に大蔵省入省。地銀を所管する金融庁監督局銀行第2課長や、財務省主計局主計官(文部科学係担当)などを歴任しています。

2023年まで例年公表していた「資産運用業高度化プログレスレポート」の作成にも携わり、22年版の作成過程では、複雑な仕組み債に関する批判的な書きぶりについて庁内で慎重論があったものの、井藤氏のGOサインによって(EB債を株式代替として)「購入する意義はほとんどない」との文言のまま公表を決行した経緯があります。仕組み債問題が注目を集める大きな契機となり、結果的にFD原則の一部ルール移行を含む制度改正に向けた機運を生み出しました。

井藤氏を長く知る人物からは「同年代の他の幹部と比べ、上昇志向や野心を表に出すタイプではなく、昇格は意外だ」(元部下)と驚きの声が上がり、「ウィークポイントのないオールラウンダー」「根っこの人柄は温かいが、部下からみると時に『合理的過ぎ』にみえるところもある」(いずれも関係者)といった評判も聞こえます。

長官人事をめぐっては、監督畑の経験が長く、足元で相次ぐ処分案件の対応にあたっている栗田現長官の続投や、監督局長の伊藤豊氏の昇格といった観測もありました。

業界に衝撃を広げた人事の背景には、井藤氏が率いる企画市場局と官邸との関係強化が垣間見えます。NISA拡充を柱とする資産所得倍増プラン、国内企業へのリスクマネー供給策を含む資産運用立国実現プランの具体策を調整する過程で、金融庁内の政策担当部署と官邸との距離はかつてないほど縮まりました。

資産運用立国は「支持率が低迷する岸田政権にとって対外的にアピールしやすい重要な実績」(関係者)といわれ、立国プランのブラシュアップを求心力の向上につなげたい政府の思惑もうかがえます。過去の週刊誌報道などに敏感な官邸メンバーが人事決定力を持っていることもあり、バランス感覚に長けた井藤氏に白羽の矢が立った格好です。

栗田氏や伊藤氏が率いてきた監督局ではこの数年、地銀系証券での仕組債販売をめぐる問題や、ビッグモーターの架空請求問題、大手損保の価格調整問題、メガグループの不適切な顧客情報など、注目度の高い行政処分が相次ぎました。

毅然たる対応に踏み切った両氏の手腕と実績を評価する声がある一方、「これだけ大きな処分が相次ぐと、重大な問題を見落としていた監督局の責任問題に飛び火しかねない」(元金融庁幹部)と懸念する厳しい声もあります。処分実績がアンビバレントに評価されてしまう、監督当局の立ち位置の難しさが露呈した形です。

仕組債問題をめぐって金融庁が業界側に攻勢をかける過程では、総合政策局と監督局の行き違いがたびたび取り沙汰されてきました。複雑な仕組債に一律的な販売抑制を求めてきた総政局側と、顧客ニーズにかんがみて悪質性の度合いによって柔軟な対応をすべきだとする監督局側の温度差が指摘されていました。

今月5日ごろに総合政策局が最終版を公表すると見込まれるFDレポート(「リスク性金融商品の販売会社等による顧客本位の業務運営に関するモニタリング結果」)についても、監督行政の実効性が疑問視されるリスクがある中、外貨建債券や外貨建保険の販売をめぐる課題認識についてどれだけ踏み込んだ記載ぶりとなるかが注目を集めています。

足元では最善利益義務の創設によるFD原則のルール移行などにより、監督局が司る法令上の「ルール」と、総政局・市場局が担う「プリンシプル」との制度的な融合が進められています。ルールとプリンシプルを所掌する部署間の対立・摩擦は解消への期待が高まる一方、井藤氏、油布氏、屋敷氏の昇格により、法令と規範の「ベストミックス」への流れをプリンシプル担当部署が主導する傾向が強まる可能性もありそうです。

続きを読むには…
この記事は会員限定です
会員登録がお済みの方ログイン
ご登録いただくと、オリジナルコンテンツを無料でご覧いただけます。
投資信託販売会社様(無料)はこちら
上記以外の企業様(有料)はこちら
※会員登録は、金融業界(銀行、証券、信金、IFA法人、保険代理店)にお勤めの方を対象にしております。
法人会員とは別に、個人で登録する読者モニター会員を募集しています。 読者モニター会員の登録はこちら
※投資信託の販売に携わる会社にお勤めの方に限定しております。
モニター会員は、投資信託の販売に携わる企業にお勤めで、以下にご協力いただける方を対象としております。
・モニター向けアンケートへの回答
・運用会社ブランドインテグレーション評価調査の回答
・その他各種アンケートへの回答協力
1

関連キーワード

  • #金融庁

おすすめの記事

「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み

川辺 和将

国内株は高値一服で押し目買いの資金流入が拡大、高パフォーマンスはヘルスケア関連株ファンド=25年11月投信概況

finasee Pro 編集部

マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる

大和証券の売れ筋で「ピクテ・ゴールド」はトップ堅持、株式アクティブファンドを人気や運用成績で上回るバランスファンドは?

finasee Pro 編集部

「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由

finasee Pro 編集部

著者情報

川辺 和将
かわべ かずまさ
金融ジャーナリスト
金融ジャーナリスト、「霞が関文学」評論家。毎日新聞社に入社後、長野支局で警察、経済、政治取材を、東京本社政治部で首相官邸番を担当。金融専門誌の当局取材担当を経て2022年1月に独立し、主に金融業界の「顧客本位」定着に向けた政策動向を追いつつ官民双方の取材を続けている。株式会社ブルーベル代表。東京大院(比較文学比較文化研究室)修了。
続きを読む
この著者の記事一覧はこちら

アクセスランキング

24時間
週間
月間
マン・グループの洞察シリーズ⑬
AIバブルのタイミングを計ることはできないものの備えることはできる
大和証券の売れ筋で「ピクテ・ゴールド」はトップ堅持、株式アクティブファンドを人気や運用成績で上回るバランスファンドは?
「遵守か説明か」から「遵守か合併か」に――2026年の地銀政策はどこへ?金融審「地域金融力WG報告書案」を深読み
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
こんな議論してたっけ!?資金交付制度だけじゃなかった、地域金融力WG報告書案で飛び出した注目ポイント3選
国内株は高値一服で押し目買いの資金流入が拡大、高パフォーマンスはヘルスケア関連株ファンド=25年11月投信概況
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
米国RIAが語るプライベート市場の進化と個人投資家への拡大【米国RIAの真実】──Midland Wealth Managementのエミル・スキ氏とジェイク・ステープルトン氏に聞く
富士通/富士通企業年金基金の企業型確定拠出年金の取り組み-加入者の関心を高めるセミナー、動画配信の工夫に迫る
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(4)バランスファンドのモニタリング① ベンチマークの課題とその解決法
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
企業型確定拠出年金の運用商品を見直し、継続投資教育を刷新したヤマト運輸が加入者の反響を得た手応えとは
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
富士通/富士通企業年金基金の企業型確定拠出年金の取り組み-加入者の関心を高めるセミナー、動画配信の工夫に迫る
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
ファンドモニタリングは、どの指標を参照すればいいか
(4)バランスファンドのモニタリング① ベンチマークの課題とその解決法
「顔の見える関係」づくりに注力、より良い企業型確定拠出年金制度の実現に大和ハウス工業がコミュニケーションを重視する理由
「支店長! お客さまへ良い提案をするためのコンサルティング能力はどうやって向上させればいいですか。何に関心を持つべきでしょう」
米国RIAが語るプライベート市場の進化と個人投資家への拡大【米国RIAの真実】──Midland Wealth Managementのエミル・スキ氏とジェイク・ステープルトン氏に聞く
【金融風土記】東日本大震災からまもなく15年、福島の金融勢力図を読む
経営、本部、販売現場が価値観を共有し「真のコンサルティング営業」の実践へ case of ちゅうぎんフィナンシャルグループ/中国銀行
「中途半端は許されない」不退転の覚悟で挑むリテール分野への新たなるチャレンジ case of 三菱UFJフィナンシャル・グループ
【プロはこう見る!投資信託の動向】
NISAに必要か?「毎月分配型」「債券メイン」ファンド、「特定の年齢層対象の制度」
新たな商品・制度の導入は、投資家のリスク許容度・理解度が鍵
【運用会社ランキングVol.1】販売会社が運用会社に求めるものは、運用力か人的支援か? 2025年の評価を発表!
【連載】こたえてください森脇さん
⑫元本保証でない商品の販売を嫌がる職員への働きかけ
長野市vs松本市"不仲説"を乗り越え統合の八十二銀・長野銀が、「もう取引しない」と立腹の取引先と雪解けに至るまで
三井住友銀行の売れ筋でランクアップしたファンドは? ランクインした「ライフ・ジャーニー」は期待以上のリターン
【運用会社ランキングVol.4】野村アセットマネジメントが2年連続トップ、3位に急浮上したのは大和アセットマネジメント/ゆうちょ銀行・郵便局編
いわき信組処分の余波……金融庁は刑事告訴を検討も、地域金融機関を救う「資本参加制度の延長論」に落とす影
ランキングをもっと見る
finasee Pro(フィナシープロ) | 法人契約プランのご案内
  • 著者・識者一覧
  • 本サイトについて
  • 個人情報の取扱いについて
  • 当社ウェブサイトのご利用にあたって
  • 運営会社
  • 個人情報保護方針
  • アクセスデータの取扱い
  • 特定商取引に関する法律に基づく表示
  • お問い合わせ
  • 資料請求
© 2025 finasee Pro
有料会員限定機能です
有料会員登録はこちら
会員登録がお済みの方ログイン
有料プランの詳細はこちら