「ねえ、お母さん、これどういうこと?」

「え?」

孫たちを連れて久しぶりに帰ってきていた娘の久美子は怒っていた。手には携帯会社からの請求書が握られていた。道代は封筒を勝手に開けたことをとがめようと思ったが、それ以上に久美子は怒っていた。

「1カ月の携帯料金が3万もしてるじゃん。そんな使ってないでしょ?」

「ええ、そうね。でも、それって普通じゃないの?」

「そんなわけないじゃん!」

久美子が請求書の中身を精査していくと、道代が全く使っていないオプションや高額なプランに加入していることが分かる。

「こんなのお母さんには必要ないでしょ。電話とメールができればいいんだから」

「そう、だけど、お店の人が勧めてきたから……」

久美子はあきれた顔になる。

「向こうは売り上げを出すために、お母さんをカモにしたんだよ」

そう言われると、道代は何も言えなかった。

それから久美子は道代を連れて携帯会社に向かい、すぐに高額なプランなどを解約していった。店員の対応などでいら立っていた久美子は帰り道で道代に冷たい目線を向けた。

「お母さんってさ、世間知らずだよね」

夜、久美子たちが帰ったあと、道代は1人寂しく晩ご飯を食べていた。

夫が亡くなってからは、テレビだけが話し相手になっているが、今日はテレビの音すらも入ってこない。頭の中では久美子の”世間知らず”という言葉が反響していた。

久美子は決して嫌みで言ったわけではないというのは分かっている。それでもあの言葉は道代の心に重くのしかかっていた。

道代は高校を卒業して、社会に出ることもなく、見合いで知り合った夫と結婚し、それからはずっと専業主婦だった。だから世間を知らないと言われれば、そうなのかもしれない。少なくとも久美子に比べればずっと、道代は世間知らずなのだろう。しかし道代も好きで専業主婦をやってきたわけじゃない。

そういう時代だったのだ。