コロナ下、余ったお金は住宅や車に。過熱ぶりを振り返り
コロナ以前のアメリカのインフレ率はおよそ2%前後をうろうろしていましたが、コロナによる経済停止により一時的に激減しました。そして2021年春以降、経済活動がオープンしたのにともない、ここ数カ月で急上昇中です。2021年3月に2.6%、4月は4.2%、5月は5%となり、6月は5.4%に。今後のインフレはどう推移するのかと不安の声も出ています。
コロナ感染拡大中のアメリカでは、経済活動の停止によって製造・生産が止まる一方で、Stimulus Check(給付金)が本当にお金に困っている人だけにではなく、特に困っていない人々も含め、あらゆる人に送られました。その上かなり寛容な失業保険も発行されました。
同時に、家の外でのアクティビティが規制されたためお金の使い道も限られ、アメリカに暮らす人々の現金残高トータルは、コロナによる封鎖期間にそれまでのレベルに比して$2トリリオン(兆)も増加しました。お金がなくて食べ物が買えずフードバンクに頼る人が増えた一方で、行動は規制されつつもどんどんお金が余る人も増えたのです。
外食や旅行は差し止めになったので、そこで満たされるべき消費欲求が家のリモデルや不動産、及び車の購買意欲を高めました。これらの残された「コロナ下でも許されるお金の使い道」に対し、金余りの消費者が流れ込み、自動車価格、不動産価格、木材価格などに大きな値上がりを引き起こしました。インフレ率の増加は、主にこの自動車価格、不動産価格、原材料価格の上昇が大きく影響しています。
これと同時にコロナ渦の初期に、自動車メーカーが車両に搭載する半導体の発注をカットしたため、新車の需要に対応できるだけの半導体が不足している状態が続いています。そのため新車だけでなく、新車の需要が流れた中古車市場にも影響が出ました。私の友人は不幸なことに運転中追突され、車が廃車になったのですが、代わりの車がとにかく手に入らなくて困っていました。減った供給と増えた需要により、新車・中古車ともに自動車の価格が高騰しました。2020年に、新車の平均価格は6%上昇、中古車のそれは14%上昇しました。
また、家にこもってすることがない人々が家回りのリモデルに取り組みました。家の周りを散歩すると、あちこちで家回りの改装や改築を見かけます。さらには都市部からリモートワークをしながら週に1~2度の通勤が可能な郊外の不動産物件にオファーが殺到。新築も増え、これにより木材の需要が劇的に高まりました。これにともない、木材の単価は300%も値上がりすることになりました。
全米の住宅価格の中央値は、昨年1年間で17%上昇。一件の物件に何十件もの買いオファーが殺到し、ビット戦争(Bidding War=多くの買い手が争ってオファーを出し続けることで値段が吊り上がる現象)が起こり、ワシントン州にいるクライアントの方からは、「近くの物件が$700,000程度で売りに出ていたのに、当初の値段より$200,000も吊り上がった価格で売れた」と驚いておられました。実はここ半年くらいこのような状態は珍しくなく、現物件を下見せずインターネットで見学のみでの買いオファーを出すという人まで出る過熱ぶりです。
2021年春以降、コロナから急速に立ち直りつつあるアメリカは今や金余り、バブル状態ともいえます。経済活動が以前の状態に急速に戻りつつある一方で、労働に戻りたがらない人々も多く、運送、清掃、カスタマーサービスなどのサービス業では人不足が深刻になり、$1,000のサインアップボーナス(新たに就職し、一定期間勤めるなどの条件がクリアしたときに支給される現金ボーナス)をオファーする雇用主も増えています。これがまた金余りと価格高騰を起こすという循環です。
しかしながら全般的な見方としては、このようなインフレ傾向は一過性であるというのが一般的です。2022年までには半導体供給も需要に追いつくと予想され、また木材の供給も同様で、高インフレ環境は短期的なものであろうと予想されています。