デフレが終焉しインフレに突入――世界各国の経済が転換を迎えている今、“銀行預金だけ”を持つ危険性が語られています。ただ、適切にリスクを分散させた資産運用をすれば、インフレ下にあっても自分・家族の生活や資産を守ることはできると日銀出身の政策アナリスト・池田健三郎氏は説きます。
話題の書籍『「新しい資本主義」の教科書』では、日本や世界を取り巻く状況から、投資をはじめとする資産運用の意味について分かりやすく解説しています。今回は本書の『はじめに』、第1章『「5年後の世界経済」を予測したうえで投資を!』の一部を特別に公開します。(全4回)
●第1回:「経済の安定は政府・日銀が何とかしてくれる」の楽観は禁物といえる“これだけの理由”
※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)の一部を再編集したものです。
値動きの予測が難しい今、投資が抱えるリスク
2022年、政府は「新しい資本主義」、「資産所得倍増計画」を打ち出し、「資産所得の倍増とはいったい何か」、と話題になりました。
現政権では、「新しい資本主義」の中身として、「企業部門に蓄積された325兆円の現預金を、人・スタートアップ・GX・DXといった重要分野への投資につなげ、成長を後押しするとともに、我が国の個人の金融資産2000兆円を投資につなげ、家計の勤労所得に加え金融資産所得を増やしていくこと」と定義しています。これは、ごく簡単に言えば「お金の働きをより活発にして、より多くの付加価値を生み出す」ということです。
無論、所得や資産が倍増するのは悪いことではありませんが、投資による資産増には相応のリスクが伴います。また、せっかく所得や資産が倍増しても、同時に物価も2倍になったのでは実質的には増えたことになりません。
ただし、投資で倍増とまではいかなくとも、数割程度ならば増やすことができる可能性があり、体感的に「そろそろ何か手を打たなければ……」と考える人も徐々に増え、投資に注目が集まってきているのも事実です。
投資における収益は不確実性(リスク)をある程度、受け入れなければ実現できません。例えば2022年の11月11日、前日まで146円台半ばだった米ドル/円が一気に一時138円46銭台にまでドル安/円高が進みました。
為替の世界では1日で1円でも動けば「下落」、「高騰」という言葉が使われるくらいですから、かなりの値動きです。
一晩で1ドルが6円も動くというのは滅多にないことで、FX取引などで資産の多くを失った人も少なからずいたのではないでしょうか。かく言う筆者自身も、長期保有を前提としながらごく短期的にはドル建ての含み損を被ることとなり、その間は想定外のモヤモヤ感に苛まれました。
このような例を挙げるまでもなく、為替や株式の相場など、未来の値動きを予測することは非常に難しく、誰にも分かりません。