※この記事は「Ma-Do」(Vol.68、2022年11月末発行)に掲載された記事を再編集したものです。
ロシアのウクライナ侵攻から9カ月が経ちました。当初ロシア側は短期決戦を目論んでいたとされますが、実態としてはいまだに終結の見通しはなく、さらなる長期化の可能性も指摘されています。これらはエネルギーや穀物価格の上昇につながる上、金融市場の混乱の大きな要因となっています。加えて、コロナ禍からの需要増加も重なり欧米では大幅な物価上昇が継続し、欧米の中央銀行では急激な金融引き締めが進んでいます。
金融市場の行方を左右する米国金融政策と足元の景況感
中国では、10月に5年に1度の共産党大会が開かれ、習近平総書記の3期目続投が正式に決定。その後選出された共産党指導部は、習氏に近いとされる人物で占められました。中国は、改革開放路線から共同富裕への方向性を一層強めるとともに、ゼロコロナ政策も当面続けるものと思われます。
このような先行き見通しが不透明な投資環境下で、投資家である顧客は不安を抱えていることでしょう。現状の投資環境を適切に伝え、先行きの変化に対する判断材料をしっかり提供していくことは極めて有効なことです。
現在の金融市場の最も大きな関心事は、欧米のインフレやそれに対する中央銀行の金融政策と考えられます。世界の市場に多大な影響を及ぼす米国の動きは、世界の投資家にとって最大の注目点ではないでしょうか。
FRB(米連邦準備制度理事会)は11月のFOMC(米連邦公開市場委員会)で、政策金利の誘導目標を通常の3倍にあたる0.75%の引き上げと決定し、3.75~4.0%としました。0.75%の大幅利上げは4会合連続で、政策金利は2008年1月以来、約14年半ぶりの高水準となりました。
会合後発表された声明文では、「金利目標の継続的な引き上げが適切」としながらも、「金融政策が経済活動や物価に影響を及ぼすのに時間差がある点を考慮する」との文言が新たに加えられました。これは急速な利上げによる景気への悪影響を意識しているものとみられます。パウエルFRB議長は声明文発表後の記者会見で、インフレの沈静化にめどが立たないことなどから、「最終的な政策金利は、(FRBのこれまでの見通しに比べ)より高くなる」と指摘し、「利上げ停止を考えるのは、かなり時期尚早だ」とも付け加えました。FRBは、とにかく物価を落ち着かせるために、景気の悪化にはある程度目をつぶるという方針を鮮明にしたことになります。
そもそもFRBに課されたミッションとは、「雇用の最大化」と「物価の安定」という2つの使命を果たすことにあります。10月の非農業部門雇用者数は前月比26万1000人増で、上方修正された前月の31万5000人増から増加幅はやや鈍化したものの、市場予想(19万3000人増)を上回りました。失業率は3.7%と前月の3.5%から上昇しましたが、水準自体は歴史的に低いと言えます。多少の強弱はあるものの、全体として米国労働市場は引き続き強い状況と考えられます。一方、物価は歴史的上昇が継続しています。10月の米CPIは前年同月比7.7%上昇し、エネルギーと食品を除くコア指数は、同6.3%上昇となりました。夏場にかけて約40年ぶりの伸び率となった高い水準からは縮小しているものの、家賃や賃金などを中心にインフレ圧力の根強い状況が続いています。