「老後の備えは自分で作らなくてはいけない」そんな危機感がコロナ禍でさらに膨らみ、投資を始める人が増えている。しかし、そうはいっても奥深いのが投資の世界。慣れれば慣れるほど疑問や不測の事態に直面することも増えてくる。

そこで、この連載では「資産形成3年目だからこそ知りたい」用語や投資情報を解説する。第12回は「インパクト投資」について。

投資では企業の収益性や安定性などを指標に投資先を判断する方法が一般的だが、近年では「企業が社会に与える影響」を重視して投資先を選ぶ手法も広がりを見せている。今回はそのひとつである「インパクト投資」について解説していく。

企業が社会に与えた影響を判断する投資手法

まずは、インパクト投資の定義について確認しよう。

そもそも「インパクト」とは、企業がその事業や活動によって社会および環境に与えた影響を指す。企業のインパクトに注目し、投資による利益だけでなく、社会貢献も目的とするのがインパクト投資だ。たとえば貧困や差別、環境や福祉の問題解決にどう取り組んでいるかなどを判断基準とする。

投資家は通常「リスク」と「リターン」を軸に投資の判断を行うが、インパクト投資ではそれらに加えて「社会や環境の変化を生み出せるかどうか」も判断基準にする。財務的なリターンと社会的な貢献の両立を試みることが、インパクト投資の特徴といえる。

また、投資先への世論による評価も重要だ。企業が社会や環境にもたらした影響を把握し、投資の戦略を継続的にマネジメントする必要がある。

インパクト投資は社会や環境にもたらした影響を定量的・定性的に測定している企業を投資の対象とすることが多い。近年では自社が社会に与えた影響を公開してインパクト投資を呼び込むための取り組みが、企業にも広がっている。

たとえば、医薬品を製造するエーザイ株式会社は、途上国に無償提供した薬によって生じた患者の労働時間を各国の最低賃金と掛け合わせ、1年間で約1600億円の利益を生んでいると試算した。

ほかにも、日清食品株式会社は、食品廃棄物の肥料化などの環境保全への取り組みにかけたコストを公開しているほか、環境への取り組みや食育がPBRの向上と相関関係にあるというデータも統合報告書で発表している。

さらに、積水化学工業は自社製品の温室効果ガス排出削減量を経済的な価値に換算し、事業活動が与えた環境への悪影響による経済損失を差し引いたうえで「ステークホルダー包括利益」を算出。株主が企業価値を把握するための考え方を実践している。なお、2016年と比較して2021年の包括利益は2倍以上に拡大した。

このように、本来は数字として見えづらい環境への貢献具合を数値化し、内外に示すことで企業価値を向上させようという動きもあるのだ。