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投信業界のキーパーソンにロングインタビューする投信人物伝。「レオス・キャピタルワークス」の代表取締役会長兼社長最高投資責任者(CIO)である藤野英人氏に、これまでのキャリアやレオス設立の経緯などを伺いました。藤野氏はゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント在籍後、2003年にレオスを立ち上げましたが、個人向け投資信託の「ひふみ投信」の設定後間もなく、リーマン・ショックで経営が悪化します。ISホールディングスの救済により倒産は免れたものの、藤野氏の処遇は平社員に降格。どん底と言える環境の中、「理想の投資信託」をつくるという目標のために再起を図るのです。

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セゾン中野氏、コモンズ渋澤氏とともに草食投資隊を結成

「理想的な投資信託を世に送り出したい」という気持ちで、レオス・キャピタルワークスとして初めての個人向け投資信託、「ひふみ投信」を設定したのと同時に、リーマンショックが襲い掛かり、会社の経営が大きく傾きました。

幸いにも救いの手が差し伸べられたので、会社の倒産という最悪の事態は免れましたが、私自身は社長から平社員に降格となり、給料も大幅に減額されました。まあ、会社を倒産させかけたのですから、それは当然のことです。また一からの出直しです。

そんな時期、セゾン投信の中野晴啓会長(当時は社長)、コモンズ投信の渋澤健会長と共に、「草食投資隊」を結成しました。もともとは雑誌の企画でスタートしたトリオだったのですが、3人とも同じ独立系投資信託会社仲間ということもあって意気投合し、日本各地を3人で回って、本当の長期投資とは何かを啓発しよう、ということになりました。

投資は、どちらかというと「肉食」のイメージがありますが、長期投資は地面に苗を植えてじっくり育つのを待ち、収穫するのに似ています。しかも、私たちは毎月コツコツと積立投資をすることを、大勢の人たちに伝えていこうと考えていました。何となく「草食」のイメージだったので、草食投資隊と名付けたのです。

日本全国、本当にいろいろなところを3人で回りました。それこそ南は沖縄、北は北海道まで、という感じでしたが、そのなかで最も記憶に残っているのが、石川県の能登半島に行った時の話です。

3人で能登半島まで行き、そこで長期投資のセミナーをした後、私たちを能登半島に招いて下さった方と食事に行きました。食事が終わった後、その方が是非とも私たちを連れて行きたいところがあるとおっしゃいます。連れて行って下さったところは、何の変哲もないスナックだったのですが、その方曰く、スナックのママさんが凄い能力を持った人で、相手の顔を見ただけで職業をズバリ当てるのだそうです。

早速、3人とも見てもらうことにしました。ちなみに当時、私だけでなく中野さんも、渋澤さんも、運用しているファンドに資金が集まらず、とても苦労していた時期です。当然、会社はどんどん赤字が出ていて、火の車状態でした。くだんのママさん、私たち3人の顔をしばらく見て、「あなた方の職業が分かりました」と言いました。

さて、何って言ったと思いますか?

「あなた方は3人とも、NPOの方ですね」。

「・・・・・・」。私たちは無言のまま顔を見合わせました。NPO。つまりノン・プロフィット、非営利です。

そのくらい私たち3人は、お金がないムードを全身にまとっていたのです。あの時、渋澤さんが物凄く渋い、複雑な顔をしていたことを、今でも忘れません。