ここ数年で多数の情報が発信されてきたこともあり、より深く老後の資産運用について考える人が増えたように思います。そんな中で最近は、「Sequence of Return Risk(以下、SoRリスク)」、つまり「リターンの発生順序に起因するリスク」についての考察も目に付くようになりました。

なんだか新しいリスクのように思われるかもしれませんが、とりわけ新しいものではなく、企業年金の世界では10年くらい前から言われていたことです。当時は成熟度が高まり(加入者数対比で受給者数が多くなり)、掛金収入よりも給付が多い企業年金が増え始めていました。そのような資金が流出する状態の企業年金にとっては、ドルコスト平均法のように市場が下がったタイミングで買い増すことができなくなるため、過度なリスクテイクとならないよう注意が必要と指摘されていたのです。実際、私も企業年金向けのセミナー等でこのリスクに言及していました。

このような機関投資家レベルのリスク管理を、個人投資家(または個人向けのアドバイザー)が意識し始めたということ自体は、非常に良い傾向だと思います。しかしながら、その影響度合いは人それぞれで、SoRリスクを気にしなければならない人もいれば、そうでない人(もっと他のリスクを考えなければいけない人)もいます。そこで今回は、このSoRリスクについて、少し深堀りしてみましょう。

そもそもSoRリスクとはどのようなものか?

まず初めに、SoRリスクとはどんなリスクなのかを説明します。先ほど「リターンの発生順序に起因するリスク」と解説しましたが、具体的にどのようなリスクなのでしょうか?

当初100の資産があったとして、そこから毎年年末に10を引き出す場合を考えてみましょう。この時リターンが「1年目:+10%、2年目:+10%、3年目:-10%(3年間の年率平均リターンは8.9%)」だった(シナリオ①)とすると、当初100だった資産は3年後に80まで減少します。次に、リターンが「1年目:-10%、2年目:+10%、3年目:+10%(3年間の年率平均リターンは8.9%)」だった場合(シナリオ②)を計算してみると、3年後には75.8になります。3年間通してみれば、ともに平均年率リターンは8.9%ですが、残った資産額は4.2も異なってしまうのです。

なぜ、このような差が生じたかというと、シナリオ①では資産額が大きい初期にプラスになっている一方、シナリオ②では同時期に大きな下落を被ってしまったため、平均リターンが同じであっても、最終的な資産額に差がついてしまったのです。一般的に定年退職直後は資産額が人生最大であることが多く、その直後のリターンが老後の資産運用の成果に大きな影響を及ぼしてしまうわけです。