未曽有の緊張下で「有事の金」は機能したか

ところで、「有事の金」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。「有事の際は金を買うとよい」というような意味を持つ相場の格言で、有事とは戦争や自然災害といった国家の存亡に関わるような出来事のことです。

なぜ有事の際に金が有望な投資対象とされているのでしょうか。それは、金の価値は情勢に左右されないためだと考えられます。金はあくまで物質の1つであり、その価値は世界情勢とは無縁です。価格は需要によって変動するかもしれませんが、金そのものの価値が有事で変化することはありません。

一方、株式などの有価証券は、その発行体の財務状況に裏付けられた資産です。言い換えると、株式自体に価値があるのではなく、その発行体に価値があるのです。そのため、仮に発行体の財務が悪化すれば、基本的に価値の下落は避けられません。一般に有事の際は企業業績に悪影響が生じることから、株式は多くの銘柄で価値下落が懸念されます。

実際の価格推移を見てみましょう。米国同時多発テロやイラク戦争が起きた2001年~2003年、金価格はほぼ右肩上がりに上昇しました。3年間の上昇率は約55.3%に達しています。一方この間、アメリカの代表的な株式指数の「S&P500」はおよそ18.6%下落しました。この期間でいえば、有事の金は機能したといえそうです。

【金とS&P500の推移(月足終値、2001年1月を100としたとき)】

Investing.comより著者作成

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執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。