<前回まで>
ファンドの仕掛け人にスポットを当てる投信人物伝。農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)常務取締役CIO(最高投資責任者)である奥野一成氏のロングインタビューも今回で最終話です。これまで奥野氏に自身のキャリアやNVICの立ち上げ、著名ファンド「おおぶねシリーズ」への想いなどを伺いました。NVICは「経世済民」を中心理念に据え、価値に基づく資本配分を通じ世の中を豊かにすることを目標としてきました。「売らなくていい企業しか買わない」運用を進め、長期保有の本当のリスクがとれる個人投資家に機関投資家向けの運用を「おおぶねシリーズ」として開放します。投資家はファンドを通じ永続的に価値を生み出す企業のオーナーになり、資産を増やしながらも世の中をより良いものにするという資本主義のあるべき姿にふれることが可能になります。たとえ一時的な含み損を抱えようとも保有する企業の素晴らしさに納得してもらうことが長期運用の重要要素ととらえ、いまなお投資家との対話を重視した取り組みを続けるのです。

●連載1回目はこちら

事業を見極める能力を磨き、ファンドの運用クオリティを向上へ

いよいよこの連載も最終回になりました。最後は、私たち農林中金バリューインベストメンツ(NVIC)が、どういう未来を目指しているのかに触れたいと思います。
といっても、これまでと違う方向に、大きく舵を切るわけではありません。NVICの未来は、今まで取り組んできたことの延長線上にあります。それはつまり連載第3回で述べたNVICの設立趣意書に明確に規定したNVICにとってのステークホルダー「投資家」「投資先企業」「投資コミュニティ」への価値提供以外にありません。

第一に、当然ですが、私たちのプロダクトである「おおぶねシリーズ」の運用クオリティを向上させることです。資産運用や企業の本質に迫る分析には、明確な正解もゴールもありません。今、私たちが取り組んでいるように、売らなくてもいい会社、長期的に価値を創造し続けられる会社を発掘する能力を高めていきます。ビジネスを見るという点を、ひたすら深化させることによって、おおぶねシリーズの運用クオリティを絶えず向上させていく努力を続けていきます。

私たちの「事業の経済性を見極める能力」を高めてくれたのは、紛れもなく15年に及ぶ企業経営者の方々との対話です。長期投資家である私たちは、企業価値を増大させるという同じ目的のために経営者の方々と経営戦略、経営資源配賦について議論します。そのミーティングに臨んで、私たちは決して「手ぶら」ではいきません。私たちがその企業が営む事業の経済性に関する仮説をぶつけるべく、独自に作成した資料を持ち込み、それをベースに議論します。実際に欧米のグローバル企業に訪問し、議論を重ねて深まった知見は、日本企業の経営者と議論するときに大きな効果を発揮します。

私たちが持ち込む独自資料は相当な量に及ぶこともありますが、「NVICのこの資料って面白いんだよね」と経営者やIRの方々からフィードバックを受けるのは楽しいものです。私たちが行う本質的な議論というものは、直ちに企業価値を増大させるものではないことは百も承知です。しかし本当に大事な物事というものは、時間をかけて、しかも着実に効いてくるものなのだと思います。

このような企業との本気の議論の蓄積を通じて、私たちの「事業を見極める能力」は磨かれていきますし、長期的には投資先の企業価値増大にもつながっていくという「一粒で二度美味しい」相乗効果を発揮してくれるのです。