ブレグジットで再燃?「北アイルランド問題」とは

ブレグジットで再燃が危惧されているのが「北アイルランド問題」です。イギリスは主に東側の大きな「グレートブリテン島」と、西側のやや小さな「アイルランド島」の北部にある「北アイルランド」で構成されています。

アイルランド島は1920年代までイギリスに支配されていましたが、1921年に「アイルランド」として独立します。その際、イギリスの統治下にとどまったのが北アイルランドです。

北アイルランドはアイルランド系とイギリス系の住民が混在することになり、宗教上の対立からしばしば武力衝突が起こりました。これが北アイルランド問題の概要で、紛争は両陣営が停戦した「ベルファスト合意」までおよそ30年続き、3500人以上の死者を出したといわれています。

ブレグジットまでアイルランドとイギリスはどちらもEUに所属していたため、北アイルランドとアイルランド間の国境も解放されていました。しかしイギリスがEUを離脱したことで明確な国境が引かれることとなり、再びアイルランドへの帰属意識が強い住民とイギリスへの帰属意識が強い住民で分断が起こるのではないかと危惧されています。ブレグジットを巡る国民投票の際も、北アイルランド地域では残留を求める声が多数派でした(離脱:残留=44:56)。

この懸念の払拭を目指し2021年から発効しているのが「北アイルランド議定書」です。通商上の国境を北アイルランドとアイルランド間の国境ではなく、アイルランド島とグレートブリテン島の海上に引き、北アイルランドは引き続きEU単一市場に残留するようになりました。

しかし北アイルランド議定書も完全ではありません。通商上、北アイルランドがイギリスから切り離されたことで、北アイルランド内のイギリス帰属派が反発し、各地で暴動を起こしました。

またEUも、イギリスが北アイルランド議定書の履行を怠っているとして批判しています。特に2022年6月14日、イギリスが北アイルランド議定書を一方的に書き換えられるよう定めた法案を公表するとEUは強く反発し、イギリスに制裁金を課すこともできる債務不履行手続きを開始しました。

イギリスは2021年1月からEUを完全に離脱していますが、北アイルランド問題を含めまだ課題は山積しています。今後もブレグジットを巡り市場を揺さぶるニュースが飛び出すかもしれません。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。