<前回まで>
長期厳選投資による投資信託「おおぶねシリーズ」を運用する「農林中金バリューインベストメンツ」の常務取締役CIO(最高投資責任者)の奥野一成氏に、キャリアのこれまでを伺いしました。奥野氏は金融コンサルを目標に日本長期信用銀行に就職、ロンドンで働きながらビジネススクールに通い金融学修士号を取得します。そのロンドン生活の中で、著名投資家ウォーレン・バフェット氏の投資哲学にふれることになります。長期的な視点で企業経営に関わり価値を高める。そのバフェット流の長期投資やプライベートエクイティのあり方に傾倒し、帰国後のキャリアにも大きな影響を及ぼしたのです。

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ロンドンから帰国後、農林中央金庫に移籍し、オルタナティブ投資の道へ

ロンドンで2年間、昼はUBSウォーバーグ証券の債券ディーラーとして働き、夜はロンドンビジネススクールの学生としてファイナンスについて勉強するという生活を送った後、日本に帰国しました。

ビジネススクールでは、企業価値評価を中心に学んだので、前回にも述べましたが日本でちょうど勃興し始めたばかりのプライベートエクイティファンド周辺への転職を考えていました。そもそもプライベートエクイティファンドの「企業経営の中に入っていって経営改善を行い、Win-Winで抜けていく」というやり方は、1950年代以降の日本においての企業価値を上げて儲ける「プライベートエクイティ」という言葉こそなかったものの、興銀や長銀が「長期融資」で融資先企業に対して脈々とおこなってきた「金融+コンサルティング」そのものなのだという仮説をもっていました。

対話を通じてすべてのステークホルダーがWin-Winの関係になることを目指すと奥野氏

前回述べた通り、私が最初の就職先に、日本長期信用銀行を選んだ理由は、日本という国を豊かにしたかったからです。

長銀が行っていた融資は、目先の資金繰りのために短期資金を貸し出すのではなく、企業の設備投資に必要な長期間の資金を貸し出し、行員は融資先企業と密接に連携をとって、財務部長などにさまざまなアドバイスをしながら、お互いにとってハッピーなゴールを目指していくというものでした。これは、まさにバフェットの考えやプライベートエクイティの手法に一脈通じるところがあります。私がバフェット流の長期投資やプライベートエクイティに傾倒していったのは、必然だったのではないかと思うくらいです

そんなことを思いながら、次のステップをどうしようなどと考えていた時、長銀から農林中央金庫に移っていた先輩から、「プライベートエクイティファンドね。それはそれで面白いかもしれないけど、それならまず農林中央金庫でプライベートエクイティファンドに投資する立場から業界全体を見渡した後にプライベートエクイティファンドに入っても遅くないよ」とアドバイスされました。「なるほど!」と思いました。

今もそうですが、当時から農林中央金庫は、プライベートエクイティやヘッジファンドなどのオルタナティブ投資分野において、相応のトラックレコード(運用実績)とレピュテーション(評判)をもっていました。その両方を担当しないかという話だったのです。

私は農林中央金庫に入れてもらい、念願のオルタナティブ投資の担当者になりました。当時は私を含めて3~4人のチームでした。ここで私は後に繋がるとても貴重な経験をすることになります。一つ目はヘッジファンド投資での企業価値と資本市場に関する学び、二つ目はアクティビストファンドとの接点の中で得た企業との対話に関する学び、それから三つ目はプライベートエクイティ投資、特にプライベートエクイティファンドとの個別共同投資案件で得た企業投資の目線でした。