ファンドの仕掛け人にロングインタビューする投信人物伝。シリーズ第3回は投資信託委託会社「コモンズ投信」の代表取締役社長である伊井哲朗氏にスポットを当てます。伊井氏には、これまでのキャリアを振り返りながら、コモンズ投信を立ち上げた経緯や理想を共にする取締役会長の渋澤健氏との出会い、長期投資ファンドが目指す未来の可能性を伺います。まずは山一證券時代の振り返りからです。

就職は国際舞台を目指し、世界をまたにかける商社を志望

落合信彦という作家をご存じでしょうか。若い人の間では、メディアアーティストの落合陽一さんのお父さんと言った方が分かりやすいかも知れません。国際政治・経済を舞台に、フィクションとノンフィクションが混在したかのようなオチアイワールドに、10代だった私は夢中になりました。

やがて「世界で活躍したい」という気持ちが強くなり、大学は国際政治を専攻して卒論も「イランイラク戦争にみるアメリカの中東戦略」を書きました。楽しい大学生活も、4年目に入ると就職活動の時期を迎えます。世界で活躍したいという気持ちは、まだこの時も強く持っていて、就職先は大手商社にしようと考えていたのですが、当時は第二次オイルショックの直後ということもあり、商社は「冬の時代」と言われるほどの低迷期でした。

証券会社時代の理想と現実を振り返る、コモンズ投信代表取締役社長の伊井哲朗氏

商社の復活はあるのか?私は一計を案じ、商社へのOB訪問を始める前に当時、大学のある関西に拠点を構えていた山一証券経済研究所のOBを訪ねました。表向きの理由は「山一證券への就職を希望しています」でしたが、実際はそうではなく、商社はこの先、本当に駄目なのか、だとしたらこれから先、どのような業種が成長するのかを聞きたかったのです。

いろいろな話をして下さったそのOBの方の商社に対する見方は、「今は確かに厳しいけれども、商社には優秀な人材が集まっているから、乗り切れるんじゃないか」ということでした。この話を聞いて、まずは商社を中心に就職活動をすることにしたのです。

当時の会社訪問解禁日は、大学4年生の10月1日でした。ですが、それをしっかり守っている企業などほとんどなく、OB訪問という名の実質的な就職試験が、初夏にはスタートしていました。すでに大手商社のOB面談などを終えた私は、2つの大手商社から最終面接の通知をもらっていました。

確か、どちらも3000人くらいの学生が希望して、最終面接に残ったのが30人。そこから15人に絞るということでした。そのうち理系が5人で文系が10人。正直、何とかなると思っていたのですが、蓋を開けてみたら両社ともダメ。この時点では、ほかの会社も実質的な会社訪問期間が終わっていたためもうチャンスはなく、落胆は大きなものでした。