手洗いの重要性を訴えたゼンメルワイスの悲劇

今では手洗いが感染予防に効果があると知られていますが、昔はそう重要だと考えられていませんでした。そんな中、ハンガリー出身の医師イグナッツ・フィリップ・ゼンメルワイス(1818年~1865年。以下ゼンメルワイス)は手洗いの重要性を訴えていました。

ゼンメルワイスは産婦人科部長のとき、同じ病院・同じ技術で治療をしているにもかかわらず、産褥熱(さんじょくねつ=産後の女性における熱性疾患)の死亡率が病棟で大きく異なることに気づきます。

違いは医療従事者にありました。死亡率が高い病棟では医学生の教育が行われており、医師たちは解剖の授業後にそのまま検診していたのです。当時は病原菌の存在は知られていませんでしたが、ゼンメルワイスは解剖後の医師に「死体粒子」が付着していると考え、手を消毒するよう義務付けました。その結果、産褥熱による死亡率は激減し、ゼンメルワイスは手指の消毒の有効性を見事に証明したのです。

しかし、当時の医学界はゼンメルワイスの功績を認めませんでした。ゼンメルワイスの発見は、当時の医学界の主張と対立していたためです。また感染の原因が医師にあるとしたことも、医学界に受け入れられなかった理由だと考えられています。

ゼンメルワイスは失職し、晩年は神経衰弱と思われる症状に苦しみます。そして1865年7月、精神病院の入院中にこの世を去りました。彼の功績を考えれば、あまりに不遇な結末といえるでしょう。

今日では彼の功績をたたえ、ゼンメルワイスは“感染制御の父”や“母親たちの救い主”と呼ばれています。手を洗うとき、母親たちを救うために奮闘したゼンメルワイスのことを思い出してみてください。

執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)

証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。